表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
414/686

414

 どれぐらい歩いたのか分からない。

 かなり歩いたと思う。ずっと同じだった景色が少しずつ変わってきているように思えた。

 全体的に少し明るくなり、地面には草が茂っている。湿気はなくなり、むしろ新鮮な空気を吸っているような感覚。

 ……既視感? キイと出会ったときのことを思い出すわ。

「ここです」

 シーナはその場に立ち止まる。目の前は行き止まりだった。茶色い岩の壁が私たちと向かい合わせにあるだけだ。

 ……この壁を壊してくださいってこと??

 鍛えてはいるけれど、私にそこまでの馬鹿力はないわよ。相当劣化した岩なら崩すことは出来るかもしれないけれど。

 とりあえずやってみるしかないわ! 壁ぐらい崩壊させてやるわよ!

「分かったわ。破壊すればいいのよね?」

 私はそう言って、壁に向かって飛び蹴りの準備をする。

「違います」とシーナに即答される。

 え、と飛び蹴りの構えをした状態でシーナの方へと視線を向ける。

 まさかここまで来て、行き止まりの場所に連れてこられるなんて……。

 もしかして、道を間違えたとかかしら。

「アリシア様は変わって……、独特ですね」

 せめて「面白いですね」って台詞があるでしょ。

 私はシーナをジトッと睨む。そんな私と目を会わせながら、シーナはフッと目を細めて笑う。

「この壁を壊してもあるのは岩だけです。……なので、下に落ちましょう」

 そう言って、彼女はコンコンっと靴の踵を軽く地面に二回叩きつけた。その瞬間、地面がガガガッと音を立てて開いた。

 私たちはその場から落ちていく。最初の数秒間だけ凄いスピードで落下したが、少しするとゆるやかになった。驚いて言葉が出ない。

 今、自分がどういう状況なのかさっぱり分からないわ。どうして、あんなことが起こるの?

 床が開くような仕掛けになっている……、というよりかは、シーナが合図を出したように見えた。

 落ちていく景色は、青空の中にいるみたいだった。雲があり、目の前には美しい澄んだ空が広がっている。

 …………綺麗な場所。

 まって、景色にうっとりしている場合じゃない! どうして床の下が空になんてなっているのよ。

 私は穏やかな表情で一緒に落ちているシーナの方を見つめる。

 なんて優雅な表情で落下してるの……。紅茶の入ったティーカップを持っていても不思議ではない。

「ねぇ、ここどこ!?」

 悪女は常に冷静でいなければならないのに、衝撃が大きすぎてつい大きな声を出してしまう。

 仕方がないわ。誰もこんなこと予想出来るはずないもの。

 これでもまだ私は冷静な方だと思うわ。だって、ついさっきまで地上にいたのに、突然落ちたと思ったら空にいるんだもの。

 ……魔法としか考えられないのよね。

「すぐに分かります」

「…………というか、どうやって地面に着地するの?」

「大丈夫です」

 シーナは私を安心させるような笑みを浮かべるが、私は少しも安心できない。

 どうしてなんの情報も与えてくれないのよ……。このまま落下死だけは嫌よ。それなら、神様と戦って死にたいわ。

 そんなことをぼんやりと考えていると、地上が見えてきた。

 ……一面のお花畑。

 色とりどりのパステルカラーの小さな花たちが生き生きと咲いていた。遠く先まで全てが花に覆われている。

「なんて素敵なの」と思わず目の前の景色に釘付けになる。

 女の子が喜びそうな場所ね。

 可愛いがギュッと詰まっていて、乙女心を刺激する。こういうところで告白すれば八十パーセントぐらいは成功するんじゃないかって思う。

「さっきまでの場所とは大違いね」

「そうですか? 私にはあの薄暗い通路さえも素敵に思います」

 シーナは私の言葉に静かにそう返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 一気に読み進めてしまうくらい面白い。 続きが楽しみ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ