412 十六歳 ウィリアムズ家長女 アリシア
「なに、ここ……」
私は目の前に広がる景色に思わず固まってしまう。
「滝です」と、冷静にシーナは返す。
それぐらい見れば分かるわ、と思わず心の中でつっこんでしまう。
この滝はただの滝ではない。微かだが魔力を感じる。……魔力でもないわね。なにか「気」を発しているように思えた。
水は自ら輝いているように見えるし、ここだけが異空間だと思えるぐらい空気が澄んでいて不思議な感覚になる。
こんな神聖な場所に私たち人間が入っていいのかと思えるほど……。そう言えば、キイと出会った場所もこんな滝があった気がする。
滝に触れるまでに、水面に数個の大きな石が置かれている。
私がぼんやりと滝を眺めている間に、シーナはトントンッとリズムよく石の上を渡り、滝にそっと触れる。
彼女が滝に触れた瞬間、滝が綺麗に真っ二つに割れた。彼女は私の方をチラッと見て「こっちです」と澄んだ声で言い、滝の奥へと入っていった。
一体何が起きているのよ……。
普通の人間が滝を真っ二つになんて割れるわけないわ。
聞きたいことが多すぎるが、今は彼女について行くしかない。
私も彼女に続いて、石の上を軽やかに飛び、滝の奥へと入った。私が入った瞬間、滝はカーテンのように閉まり、元に戻った。
本当にどういう仕組みになっているのか気になるわ。魔法ではなさそうだし……。いや、でもこんなこと魔力がなければできないわよね?
頭をぐるぐると回転させて何がどうなっているのかを必死に考えてみるが、何も思いつかなかった。
唯一考えられるのは…………。
「そう言えば、言い忘れていました」
シーナはハッと思い出したように声を出した。私はその言葉に首を傾げる。
「実は、あの滝の前に広がっている水面に落ちれば死んでしまいます」
……そういうのはもっと早くにいいましょ、シーナ。
彼女は言い忘れていたことを特に申し訳なさそうな素振りを見せず、説明してくれた。
「溶けてしまうんです」
彼女は自分の右腕の皮膚を人差し指でさしながら、二回ほど軽く叩く。
結構グロいやつじゃない!!
死到林での湖みたいに体に毒素が回るとかの方がまだいいわ。皮膚が溶けていくなんて普通に痛そう……。
「アリシア様が落ちなくて本当に良かったです」
シーナはそう言って、柔らかく微笑む。
…………怖いわね、彼女。クシャナとは違う種類の賢さを感じる。
私が落ちれば、そこまでの実力だと見限っていたのだろう。きっと、クシャナも私がこれぐらいのことをやってのけると思っている。
やっぱりここは敵陣だということね。気を抜いていられないわ。
「では進みましょう」
「どうやって?」
滝の奥がどうなっているのか暗くて全く見えない。いくらこの場所が慣れているシーナとはいえ、こんな場所を進んで行くのは無理がある。
シーナはニコッと私に笑顔を向け、壁をコンコンコンッと三回叩いた。その瞬間、一気にその場が明るくなった。
一面の壁の上に等間隔で取り付けられた街灯のようなものに順番に光が宿っていく。
そして、私たちの前に長い道が広がった。
だからこれは一体どうやっているのよ!!