411
「そっか」
話し終えると、カーティスは静かにそう言った。
スッキリした。たとえ、今の話全て非難されたとしても聞いて貰えただけ幸せだ。
「話を聞いてくれてありがとう」
私は素直な気持ちでそう言った。
カーティスにとっては、つまらない話だったかもしれない。聞きたくない話だったかもしれない。聖女としての自覚が全く足りないと思われたかもしれない。
けど、私は心の底から彼に感謝した。
「天使みたいな笑顔の女の子」
「え?」
突然の彼の言葉に私は思わず聞き返してしまった。
「リズに対しての最初の印象。誰から見ても君は『いい子ちゃん』だった。心の内では何を考えているのか分からなかった。それが時に俺からしてみれば不気味にさえ思えた。けど、本当の君は人間臭くて素敵だね」
カーティスは女の子を口説くのが本当に上手いわね。
…………それでもその言葉に救われた。私の人間臭さを素敵だと言ってくれる。
スッと体が軽くなったような気がした。だから、彼は皆に愛されるのね。
「……どうしてここに来たの?」
ふと気になった質問をしてみた。沈黙が続き、暫くしてカーティスは口を開いた。
「ジルが行けって」
「ジルが?」
想像していなかった人物の登場につい聞き返してしまった。
「ああ。本当のリズを見てから、彼も彼なりにリズのことを気に掛けていたんだよ。家に戻っても意外とメンタルやられてるかもしれないって。ジルは今ウィル様のことで忙しいから、俺が来たんだよ」
「……そ、そうなの。でも、どうしてジルが?」
ジルが私のことを嫌っているのは昔から知っている。それも憎悪を込めた激しい嫌悪感を抱かれている。
あの嫌悪感はそう簡単に覆すことが出来ない気持ちだ。
それでも私のことを心配してくれているのは、彼が本当に優しい人だからだろう。
…………アリシアちゃんに似たのかしら。
「彼の言動の軸になるのはアリちゃんだ。アリちゃんならこう言う、アリちゃんならこう動く。彼はそれに従ったまでなんだと思うよ」
ジルを羨ましいと思った。私にはそんな模範出来るような人がいない。
「それと」と、カーティスは付け加える。
「めそめそしてる暇あるんだったら、その能力を活かせば? って、ジルが言ってたよ」
その言葉に声を出して笑ってしまった。
彼らしい。眉をひそめながらそう言っているジルを容易に想像できた。
「そうね、めそめそしてる暇なんてないわよね。この家で私が出来ることなんてもうないもの! 私はこの国の為に働かないと! それが私の運命なんだから」
私はその場に立ち上がり、満面の笑みをカーティスに向けた。
さっきまでの息苦しい感覚はもうどこかへ消えてしまった。
「そうだよ。それにさっさとアリちゃんたちを取り戻さないとね。デュークと二人で隣国にバカンス行ってるって思うと腹が立つでしょ?」
カーティスのその言葉に私は更に笑みをこぼした。