表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
408/686

408

 マックスが悪いわけじゃない。本当に可愛らしい天使のような弟だと思う。

 それなのに、このモヤッとした気持ちは何なのかしら……。

 私は彼の遊び相手になりながら、自分の気持ちの正体を探る。

 この気持ちは、アリシアちゃんにも感じたことがある……。恋愛とは別だけど、嫉妬だわ。

 こんな小さな男の子に嫉妬するなんて姉として失格ね。

 マックスの頭をゆっくり撫でながら、ふと魅惑の魔法のことを思い出した。

 こんなことを思っていたら、また無自覚に魅惑の魔法を使ってしまうのかしら?

 本当に私は魅惑の魔法を使っているなんて思っていなかった。自分を守るために無意識に魅惑の魔法を使っていただけ……、めちゃくちゃ最低じゃない、私。

 …………それでも、魔法を使ってでも私はデュークに愛されたかった。

 一番振り向いて欲しい相手が振り向いてくれなかったけど。それなら、魅惑の魔法なんて意味ないじゃない。

 私は思わず苦笑してしまう。

「マックス、ごめんね。お姉ちゃん、用事思い出しちゃった」

 少し弱々しい声でそう言って、私はマックスを囲いのあるベッドの上に乗せ、私はその場を離れた。

 この家に自分の場所なんてもうない。けど、それでいいのよね。

 私はこの家にもう戻ってくることはないのだから。

 幼い頃いつもこっそり忍び込んでいた倉庫へと足を進める。ギギギッと音を立てて扉を開ける。

 暫く使われていなかったのね。やっぱり、ここを使っていたのは私だけだったのかしら。

 扉を開けて、小さな倉庫へと足を踏み入れる。

 埃まみれだけど、昔と少しも変わっていないわ。

 破れて読めなくなった本、使わなくなった食器、どこで買ったのか分からない安いアクセサリー、音のならなくなったオルゴール。

 ガラクタばっかりがある場所。それでも、まだ幼かった私はここにあるものすべてが宝物だと思っていた。

「懐かしいわ」

 思わず声が漏れる。

 私はまた音を立てながら扉を完全に閉める。天井を見上げると、今にも落ちてきそうな電球がぶら下がっている。

 壁高くに存在する正方形の窓から光が差し込んでくるおかげで、まだ電気をつける必要はない。

 ……ここはいつまでもこのままでいて欲しいわね。

 埃まみれの棚に何か小さく光るものを見つけた。

 あ、このガラス……。 

 ただのガラスの破片だけど、私にとっては特別なものだった。

 光の魔法を初めて使った時、私の部屋の窓が割れた。あまりに魔力が強すぎたせいで、窓ガラスが耐えられなかったのよね……。

 幸い怪我人は誰一人いなかった。

 ガラスの破片をそっと触れながら、今までのことを思い出す。

 私は今まで沢山の人に迷惑をかけた。一番はアリシアちゃん。

 迷惑をかけたと分かっているけれど、また時が戻っても同じようなことをしてしまう気がする。

 あの時の私はあれが精一杯だった。己の正義を押し通さないと、彼女に負けてしまいそうで……。最初からアリシアちゃんに勝てたことなんてないわね。

 強いて言えば、魔力ぐらいかしら。

 私は思わずフフッと自分の愚かさに嘲笑する。

「暴力のない平和な世界をつくりたい。……って言うだけなら本当に簡単よね」

 本当に誰もが笑顔でいられるような世界をつくりたいと思った。

 けど、現実はあまりにも厳しかった。貧困村の存在を知っても、あの場所へ行く勇気なんて、私にはなかった。

 今なら行ける。けど、五年前の私は「聖女」という責任を負いきれてなかった。貧困村にただ恐怖を抱いていた。

 いつか村人たちを助けたい、そう思っていたけれど、その「いつか」が来る前にアリシアちゃんが全て解決してしまった。

 ……本当にどこまでも敵わない。

 平等、平和、笑顔、暴力が存在しない世界、それらを実現する為に私は私なりに考えてきた。けど、あまりにも現実から目を背けていたのかもしれないわね。

 自分より五歳も年下の女の子に教えられるなんてね……。

 デュークが彼女に惚れるのがよく分かるわ。

 …………私も彼女みたいになりたかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
え?電球? 電気があるの?配電されてるの?発電所があるの? ダム発電?火力発電? まさか魔力発電? 貴族しか魔力が無いなら魔力発電は貴族が行っている その電力を平民街に配電している? 裕福とはいえな…
[良い点] リズ視点はいい所を見せて好かれたい願望の表現がとても共感出来ます。 そしてそれをやってしまった故の葛藤や思いの届かない嫉妬が誰でもあるグレーな部分。 アリシアという憧れとリズという大半の理…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ