398
動物とコミュニケーションとれるって、……白雪姫なの? いや、白雪姫はこんなに狂暴じゃないわよね。
ヴィクターは怪訝な表情を浮かべながら、クシャナをじっと見つめたが、私はクシャナが嘘を言っているとは思えなかった。
彼女は本当に動物と会話できるのだ。クシャナは、自分とは全く違う世界に住む人間だ。
「疑っているのか?」
「逆にそんな馬鹿げた話を信じれると思っているのか?」
「信じるも信じないも、それが真実なのだ……」
ヴィクターの尖った言葉にも冷静に答えながら、彼女は周りを見渡した。
「あれだけいて生き残った者はたったの五人か」
オレンジの仮面を被った者達がちらほらと、ふらつきながらも立ち上がる。生き残ってはいるが、腕や足などに軽傷を負っている。
死者の方が圧倒的に多い状況に、彼女は表情一つ変えない。女王は、仲間を失ったことに対し、悲しむことさえ許されないのだろうか。
窮屈な世界だわ……。まぁ、彼女も私も、皆死ぬ覚悟で戦っていたもの。
「仲間が死んだってのに随分とあっさりしているな」
ヴィクターにだけはそんなこと言われたくないわよ。
クシャナに視線を向けると、彼女はヴィクターを嘲るように笑った。
「弱肉強食の世界だぞ? 私が今この少女を殺しても不思議ではないだろう」
独特なハスキーな声。
デューク様はクシャナを睨みながら口を開く。
「殺すのか?」
「ああ。そのつもり、……だったが、殺してしまうのはもったいない」
「女王! 彼らは敵ですよ。私達の仲間も沢山殺されたんです! 情けをかける必要なんて全くありません」
オレンジの仮面を被った一人が私達に向かって大きな声を出す。その声から男性だということが分かる。
そりゃそうね。殺そうとしてきた敵に慈悲なんていらない。むしろ奴隷として死ぬまで働かされるなら、殺してくれた方が良いわ。
利用されるのも悪女っぽくて悪くないけれど、自分が利用される立場なのは癪に障る。……生意気な考えだけど。
クシャナは少し考えた後に、私の方を振りむく。真っすぐ見つめられ、彼女の赤い瞳に釘付けになる。
『さっさと殺してください』
『黙れ』
さっきとは別の叫び声に、クシャナは古語で低く答えた。その声は森に静かに響き、その場の空気を一瞬にして変えた。
なんて圧力なの……。
緊張感のあるピリッとした空気にオレンジの仮面を被った者達は押し黙る。
これが女王としての貫禄かしら。またとんでもない人に出会ってしまったわね。
「お前、この国の者か?」
「違うわ」
「あの青髪と出身は同じか……。魔法を使えるとは珍しい。デュルキス国の者か。ここで命を取るのは実に惜しいな。持ち帰りたいが、民が快く歓迎するわけがない」
ぶつぶつとクシャナは私をまじまじと観察しながら、独り言を呟いている。
皆彼女の決断を待っている。きっと、オレンジの仮面の中で顔を顰めているだろう。ヴィクターは、プライド的に絶対にクシャナには従いたくないだろうし。
デューク様とレオンの心の内があまり分からない。
「私がお前を鍛えてやろう」
暫くして、クシャナは静かに確かな声でそう言った。