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よそ見をしていて、油断したと思われたのか、リーダーだと思われる男は大きな鎌を私に向けてすかさず攻撃をしてくる。
こんな重そうな鎌を軽々しく振るなんてどんな力なのよ……。
私は上手く攻撃をかわしていく。気を抜いた瞬間、命を落としてしまう。デューク様たちの様子も気になるけれど、自分のことで精一杯だ。
右から大きな刃先が来たと思えば、次の瞬間は左から来る。
世界にはこんな超人レベルの者がまだまだいるのね……。
上には上がいる。私はもっと高みに登ることが出来る。思わず口元が緩んでしまう。
いつまでも避けてばかりじゃ勝てない。どこかで私も攻撃に出ないと!
私は一瞬の間を利用して、木の幹を蹴り、その反動で枝を掴み、そこから全身を持ち上げ木の枝に体を乗せる。
一度どう戦うか考えないといけない。……だって、私、武器を持っていないんだもの!
下にいる敵は思い切り木の幹を揺らし、想像以上に体幹がぶれる。
奇妙な仮面をつけた大男に木を揺らされて落ちそうになっている絵面、怖すぎない!? もう少し優しく揺らしてよね!
必死に耐えるが、これ以上逃げていても意味がない。それに、この馬鹿力に私が勝てそうにない。
私は、諦めて地面に落ちる。いきなり足にくる衝撃を避ける為に、全身をクルッと回し着地する。
いちいちどう戦うなんて考えていられない。今までの練習を実践に感覚でいかさないと!
私は眼帯を外し、なくなった目を見せる。黒い靄が左目を覆う。使えるものはなんでも使ってやる。
片目がないことに驚いたのか、敵は私を見て固まった。
油断大敵。敵に少しの隙も見せてはいけないのよ! ……それが仇となるわ。
その瞬間を利用して、私は立派な体格を持つリーダーの元へ一気に詰め寄る。思い切り鳩尾を蹴り飛ばし、それと同時に顔に回し蹴りを決める。
赤い模様の入った仮面が空高くへと吹き飛ばされる。
敵は私の蹴りを受けてもなお、少しよろめいただけで立ち続けていた。
信じられない。本気で蹴ったのに……。
リーダーはペッと口からどす黒い血を吐き出し、鋭い目で私を見つめた。
…………女?
仮面を取ったその姿に今度は私が驚かされた。
真っ赤な透き通る瞳に私が映る。中性的な整った顔、目の下に小さな切り傷がある。
女性の力であの鎌を振り回してたわけ? 嘘でしょ……。
『今の蹴りでようやく眠気を覚ますことが出来た。思ったよりも楽しめそうだ』
彼女はクッと口角を上げて笑う。
ラヴァール国の古語。少し訛っていたが、何とか聞き取ることが出来た。
『私も退屈しなさそうだわ』
私がラヴァール国の古語で返すと、彼女は目を見開き固まる。
『へぇ。未だに古語を話せる奴がいるとはな』
彼女はそう言って、私に関心のある目を向ける。暫く私を見つめた後に、女は覚悟を決めた目を私に向け口を開いた。
『簡単に死ぬなよ』
『そっちこそ』
私は凄まじい殺気に恐怖を抱きながらも、なんとか笑みを浮かべた。
「あの人達何を話してるんですか?」
襲い続けてくる敵と戦いながら、レオンはデュークとヴィクターに向かって叫ぶ。
「「ラヴァール国の古語だ」」
デュークとヴィクターは大勢の敵と剣を交えながら冷静に答える。
「なんで二人とも知ってるんだよ。しかもデュルキス国の王子まで」
「おい! 後ろ!」
少し気の緩んだレオンにヴィクターは叫ぶ。その声に反応して、レオンは無駄のない素早い動きで腰に差していた小型ナイフを後ろに飛ばす。
見事にそれが敵の額に突き刺さる。
人数が多い上に、個々が強い。レオン、ヴィクター、そしてデュークがかなり手こずっている。
「クソッ、切りがねえ……」
ヴィクターは少し息を切らしながらそう呟いた。