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デューク様に「落ち着いて下さい」と言いたかったが、とてもじゃないがそんなことを言える雰囲気ではなかった。
よくデューク様に目掛けて石を投げたわね……。怖いもの知らずにもほどがある。
「誰だ!」
ヴィクターは見えない何者かに向かって声を上げる。少しの間、返事を待ったが何も返ってこない。
自然災害か何かで石が落ちてきたって思いたいけれど、あれは間違いなく意図的に投げられたものだった。
「へぇ、俺らに喧嘩売るなんて面白いじゃん」
レオンは口の端を上げて不気味な笑みを浮かべる。ヴィクターはデューク様に挑戦的な目を向けながら口を開いた。
「どうやって敵を見つける?」
「向こうが攻撃してくるのを待つ」
「攻撃を全部かわせるのか? 相手に先手を譲るなんて随分余裕だな」
「俺を誰だと思っている」
「魔法を使えるからって調子に乗るなよ」
少しも焦ることのないデューク様に対して、ヴィクターはデューク様を睨みながら歪んだ笑みを浮かべる。
「魔法を使わず、ここから抜け出してやるさ」
「へぇ、それは見物だな」
もしかして、ヴィクターとデューク様って物凄く相性が悪い?
どちらかと言えば、デューク様はヴィアンと馬が合うかもしれない。
「来ます!」
レオンのその言葉で全員戦闘態勢に入る。
どこから攻撃が来るか分からない状況に緊張感がある。全方位を警戒しなければならない。見えない敵と戦うのは正直恐怖だ。
軽く寝たおかげで少し体力は回復したけれど、まだ魔力は回復していない。
それにお腹も減ったし……。大量のマカロンを食べたいわ。
ふぁ~っとあくびが出てしまう。その瞬間だった「ガキ!」と、ヴィクターの叫び声が耳に響く。
急に空から人が落ちてくる。それと同時にその男は蟹股でしっかり地面に着地し、それと同時に大きくて長い鎌を私に向かってとんでもないスピードでブンッと音を立てながら振り回した。
腰を思い切り反り、最初のひと振りをかわす。そのままバク転をして、敵と距離をとる。
私が攻撃を避けると思っていなかったのか、相手は動きを止める。私は、敵の特徴的な外見を観察した。
全身茶色い毛皮に覆われており、木で作られたと思われる仮面をつけており素顔は分からない。仮面は赤い絵の具のようなもので不思議な模様が描かれている。
……伝統的な仮面かしら?
周りを見渡すと、すっかり彼らに囲まれてしまっていた。私の目の前にいる敵以外は全員オレンジ色の模様の入った仮面だ。
あら、もしかして私の相手は頭? 最高だわ!
私ったら運が良いのかもしれない。頭も私を相手にするなんて見る目あるじゃない!
「大丈夫か?」
「もちろん」
デューク様の言葉に私は口の端を上げて答えた。
「こいつら知ってるか?」
「知らねえよ。こんな気色悪い変な奴らの話も聞いたことねえし、初対面だよ」
ヴィクターは顔を顰めながらデューク様の質問に答える。
気色悪い変な奴らって……、本人たちを目の前によく言えるわね。まぁ、ヴィクターの辞書には気遣いって言葉はないか。




