392 十六歳 ウィリアムズ家長女 アリシア
マディをきちんと持っていることを確認して、私達は城へ戻る。
レオン、ヴィクター、そしてデューク様はそれぞれの馬に乗った。……そして何故か私はライではなくデューク様の馬に乗っている。
私が望んだのではなく、デューク様に無理矢理乗せられた。断る暇もなく、気付けば彼と一緒の馬に乗っていたのだ。
……デューク様がここまで独占欲を露わにしているのは珍しい。
デュルキス国は私が他の男にとられないって自信があったのかしら。まぁ、私、嫌われ者だったものね。
レオンは特に私達のことを気にする様子はないが、ヴィクターはさっきから私達のことを睨んでいる。
こんな場所でイチャイチャするなって言いたいのかもしれない。それとも、デューク様が突然現れたことへの敵対心?
私は胸の鼓動を安定させる為に、デューク様と少しだけ距離を離していたが、急にお腹に腕を回され後ろへと引っ張られる。
「もっとくっついてろ」
その甘ったるい言葉に脳が溶けてしまいそうになる。
心臓の音が大きくなる。デューク様に聞こえないはずがない。私は必死に心を落ち着かせようとする。
会うのがあまりにも久しぶりでデューク様に対する免疫力が無くなっている。
……ああ、静まって、私の心臓。
「落としてもそのガキが怪我するとは思えねえけどな」
ヴィクターはひねくれた表情を浮かべながら乱暴に言葉を発する。
うるさいわね、と彼を睨みながら返そうとすると、先にデューク様が声を出す。
「好きな女にかすり傷一つ付けたくないだけだ」
「……その女の為に傾国しなきゃいいけどな」
「アリシア相手だと、傾国したくてもさせてくれないだろうな」
「なんて目でこいつのこと見てんだよ」
私の場所からだとデューク様の表情が丁度見えない。
ヴィクターは「面白くねえ」と呟き、私達から視線を逸らす。
いつものヴィクターなら絶対もっと言い合っているのに……。あの巨大な猪と戦って、体力を使い切ったのかしら。
猪のことを思い出し「あ」と思わず声を出してしまう。
「どうしたんだ?」
「どうしたんですか?」
デューク様とレオンが私の呟きに反応する。
「あの猪って食べれたかもしれないわよね」
「主って本当に貴族なんですか?」
真剣な私の表情にレオンは優しく笑う。
ああ、これはモテる男の反応だわ。彼の将来が末恐ろしい。
「取りに戻るか?」
デューク様の言葉に私は全力で首を横に振った。もし私が頷けば、デューク様は軽々とあの猪を取って来るはずだ。
食べてみたかったけれど、わざわざあの崖に戻りたいとは思わない。体力も魔力も、もうほどんどないもの。
……けど、絶対にあの猪は身が引き締まっていて最高に美味しい肉だったはずよ。
暫く馬に揺られていると、とてつもない睡魔に襲われた。目をしっかり開けていられない。瞼がゆっくりと落ちてくる。
魔力を一気に使い過ぎたせいかしら? その反動が今になってきたのかもしれない。
私はいつの間にかデューク様の体にもたれながら、眠りについていた。