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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
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 トルキスはほんの少しだけ。リプシムとカランの配分さえ間違わなければ完成するはずだ。

 僕は慎重に丁寧に熱されているビーカーに材料を入れていく。

 額から流れてくる汗を手で拭う。

 これで失敗したら終わりだ。……材料はもうない。

 最初から簡単に成功するなんて思っていなかったけど、こんなに難しいとは思っていなかった。成分さえ分かれば作れるものじゃないんだ。

 まぁ、でも考えてみればそうだよね。だって、あのマディをそう易々と作れるわけない。

 僕は混ざりあう三つの植物をゆっくりとかき混ぜる。早すぎず遅すぎない速さ。全ての動きが重要だ。

「……お願いだから、成功して」

 今までの僕がやってきたことを無駄にしたくない。

 僕は色が変わるのを暫く待つ。ビーカーに入った液体は綺麗な色になりつつある。

 ここからが本番だ。

 どす黒い色に変わらないことをただ祈るしかない。しばらくビーカーの中を凝視する。

 どうかこのままの色をキープして、この綺麗な淡い緑色のままでいて。

 僕は心の中で必死に叫ぶが、段々と色が変化するのが分かった。

 あ、また僕は失敗したんだ。薬を作ることが出来なかったんだ……。

 一気に力尽きてその場に崩れ落ちる。

 悔しさと自分に対しての怒り、そして絶望。僕は何の役にも立たないのかな……。

 虚無感に襲われて、涙一つ落ちてこない。僕はただぼーっとその場に座り込むことしか出来なかった。

 これからどうすればいいのだろう。……とりあえず、ビーカーの中に入っている失敗作を捨てないと。

 僕はゆっくりと立ち上がる。ビーカーの中身の色がいつもと違うことに気付く。

 え、と思わず声が漏れる。

 ……オレンジ色?

 薄い橙色の液体がビーカーの中に入っている。……汚い色じゃない。

「これが正解なの?」

 ビーカーに顔を近づけて、匂いを嗅ぐ。臭さは全くなく、どこか甘い匂いがした。

 頭は混乱しつつも、全身で喜びを感じていた。こんなに嬉しいことはない。

 胸の底から熱いものがこみ上げてきて、涙腺が緩くなる。

 良かった、本当に良かった……。僕は成功したんだ。死に物狂いで取り組んだ努力は無駄にはならなかった。

 マディを手に入れなくても、治療薬を作ることが出来たんだ。

「これで、助けられなかった命を救うことが出来るんだ」

 ねぇ、アリシア、僕やったよ。頑張ったよ。

 だから、早く帰って来てね。僕の成果ちゃんと見てよ。

 僕は何度も心の中でアリシアに話かけた。返事がないことは分かっていても、言わずにはいられなかった。

 きっと、アリシアなら「流石私のジル! よくやったわね!」って抱きしめてくれると思う。

 僕は彼女のことを想像しながら、安堵の息を吐く。 

 後は、これを持って、じっちゃんに会いに行くだけだ。…………じっちゃんは今更薬を飲んでもきっと助からないぐらい病気が進行している。

 生きて欲しいと懇願する反面、ちゃんと彼の状態を僕は知っている。

 それでも、この薬を飲めば少しでも寿命が長くなるかもしれない。そんな希望を抱いているんだ。 

 僕はオレンジ色の液体をビーカーから瓶に移し替えて、駆け足で部屋を飛び出した。

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― 新着の感想 ―
見たことのない幻の薬を作れたと確信できる不思議
[一言] ジル~、おめでとう~(ToT)
[一言] ジルよ…よくやったな! なんかアニメイト池袋の令嬢もののところにアリシアがまぎれててめっちゃ幸せになりました。 大木戸先生、これからも頑張ってください。 ファイト!
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