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あんな高いところから落ちたのに、なんの衝撃もない。……私、死んだ?
私はグッと力強く閉じていた目をゆっくりと開く。
逞しい体にしっかりと抱かれ、守られている。
これは、妄想? ……その割には、リアルに熱を感じる。
無傷なのは、咄嗟にデューク様が魔法を使ったからなのかもしれない。でも、どうしてデューク様がここにいるのかしら。
頭の中で上手く情報処理出来ない。誰もいない木々に囲まれた中、私はやや放心状態になる。
すると、デューク様が腕の力を緩めて、そのまま私をグッと持ち上げる。対面するように、地面に座り、彼は突然私を抱きしめた。
優しくない抱きしめ方。いつも余裕があり、冷静なデューク様とは思えない。
「無事で良かった」
デューク様のその声に私の心臓が締め付けられた。その瞬間、彼が本物だと確信する。
こういう時って抱きしめ返した方が良いのかしら……。私はゆっくり彼の腰に手を回す。
「アリシアを失うかと思うと、生きた心地がしなかった。…………やっとアリシアに会えた」
色々と聞きたいことが山積みだけど、私はただデューク様に抱かれたまま何も言わなかった。
こんなデューク様を知っているのは、きっと世界でただ一人私だけだろう。それが嬉しくてたまらない。
「私もお会いしたかったです」
なんとか言葉を出すことが出来た。
デューク様はそっと私から手を離す。デューク様の顔が目の前にくる。その端正な顔立ちに思わず見惚れる。
彼の透き通るような青い瞳に私が映る。……その瞬間、自分は男装していたことを思い出す。
私、こんな姿でデューク様の前にいるなんて……。
急に羞恥心が私を襲う。もっと女性らしい姿でデューク様と再会したかった。
「私ったら、こんな姿で」
私の言葉を遮断するように口を塞がれた。柔らかな唇の感触に、キスをされているのだと認識する。彼の両手が私の顔を挟む。
余裕がなく強引で熱いキスに脳が溶けてしまいそうだった。心臓の音が激しくなり、何も考えられなくなる。
そっと唇を離し、デューク様は右手で自分の口元を抑える。
「悪い、抑えられなかった」
これ以上、甘い言葉をかけられたら心臓が爆発してしまう。私はなんとか話を逸らそうと、話題を変える。
「どうしてここに?」
腰が抜けて立てない状態だし、デューク様の顔を見るのも恥ずかしいけど、なんとかいつもと同じ口調で質問する。
デューク様はとろけるような甘い笑みを浮かべながら「惚れてるから」と答えた。
……私を殺す気なのかしら?
「だ、だからって、ラヴァール国まで? デュルキス国のことは? 国王様は許したんですか」
デューク様の殺し文句に動揺して、一気に質問する。デューク様相手だといつも余裕がなくなってしまう。
彼は、少し答えに詰まり、少し考えてから口を開いた。
「……話せば長くなる。とりあえず、ここから出よう」
その言葉で私はマディを取りに来ていたのだとハッとする。
私としたことが、頭の中がデューク様のことでいっぱいいっぱいになっていて、本来の目的を忘れていたわ。
「そうだわ。レオンとヴィクターに無事だって知らせないと」
デューク様は少し顔をしかめる。
……さっき崖の上から聞こえていた何か言い合っている声って、デューク様とヴィクターだったのかしら。
「ヴィクターってあの金髪の男か?」
「ええ、この国の第二王子です」
彼は、私の返答にどこか気に入らない様子で「そうか」と答えた。
こんにちは! 大木戸いずみです。
もう皆様から頂いた感想が嬉しすぎて本当に幸せです(;_:)
読者様には感謝しかないです!♡
いつでもスマホで見れるように、頂いた感想を全部スクショしています(笑)
最近はアリとヴィクターか、アリとヴィアン推しが多いと思っていたのですが、今回のデュークの登場にアリとデューク推しがやっぱり多いのかな!? とか思っていました。
アリとジル推しっているのかな、とか色々なカップリングを考えていました。
少しでもこの作品が皆様の楽しみになればと思っています。
これからもよろしくお願いします。