382
ヴィクターとレオンは何も計画が浮かばないのか、難しい顔をしている。
私は体をグッと上に伸ばす。ここまで来た反動で、疲れを感じている。
かなり神経を集中させていたからかしら……。けど、今からが本番なのよね。
「疲れたか?」
「まさか」
私は強気な態度を見せる。こんなところでヴィクターになめられるわけにはいかないもの。
……というか、ヴィクターもレオンも普通の人間じゃない。疲れるなんて単語使ったことなさそうだわ。
「主は何か考えがあるんですか?」
「何もないわ」
堂々と答えて、レオンに微笑む。
まさかそんな答えを想像していなかったのか、レオンは「え」と固まる。ヴィクターは「やっぱりな」と驚きもせずに呟く。
まず、マディがどんな風に咲いているかなんて知らなかったもの。
さっき魔法を使ってマディを取ろうとしたけど、取れなかったのよね。何か特別な力が働いているのかもしれない。
やっぱりマディはそう簡単には取れないのね。魔法さえ使えれば楽勝だと思っていたけれど、マディ相手に魔法は役に立たないみたい。
魔力を最大にして無理に取ろうとしたら、マディを傷つけてしまうかもしれないし……。
「どうすればいいんだよ」
レオンはどこか焦ったように呟く。
そりゃそうよね、弟の命がかかっているんだもの。
「誰かが下りるか?」
「毒の植物があるのに、手を突っ込むの?」
「そうするしかないだろ」
ヴィクターは私を軽く睨む。
何か早く案を考えないと……。これ以上、ここの空気が悪くなるのは良くない。こんな場所でバラバラになるなんて、死に近づいているのと同じこと。
力を合わせるなんて柄じゃないけど、今はそうするしかない。
「私が行くわ。だから、さっきみたいに熊に襲われそうになったら食い止めて」
覚悟を決めて、私は口を開いた。すぐにレオンが反応した。
「主が行くなら俺が先に行きます」
「私の方が勝算ある」
少し強い口調になってしまう。レオンは何も言い返さない。冷たいかもしれないけど、レオンを先に行かせることなんて出来ない。
「それを言うなら、この中では俺が一番強いんじゃねえのか?」
ヴィクターが口を挟んでくる。
確かにそうかもしれないけど、私の方が小柄だし、魔法が使える。けど、何故かそれを言う気にはなれなかった。
「本当に強い人間は守られるべきなのよ。普段は何もしない。いざって時にだけ力を見せて下さい」
私の言葉にヴィクターはフッと口角を上げる。
「……なんでそこまでして死に急ぐ? 命を削るのが趣味なのか?」
馬鹿言わないで欲しいわ。私は悪女として歴史に名を残すまで死ねない。
「これが私のプライドなの」
「……なんのプライドだ? マディ採取が命を懸けるほどのことか? 俺ならプライドを捨ててでも命を取る。恥じない自分でいたい? かっこつけて命落とすなんてただの馬鹿だろ」
ヴィクターはそう言って、私を見据える。レオンは何も言わず、私の方へと視線を移す。
彼の言っていることは理解出来る。けど私とは、ものの見方が違う。
「私は、プライドを持たない自分に価値はないと思っているわ」
ヴィクターから目を逸らすことなく、言葉を発した。
こんにちは! 大木戸いずみです。
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます(;_:)
感想も全て楽しく読まさせていただいております。本当に嬉しいです(幸)
10月1日からコミックの『歴史に残る悪女になるぞ』二巻が発売されました!
本当に素敵な絵で、最高のコミックです。
これからもよろしくお願いいたします。