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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
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 僕は家に着くなり、図書室に閉じこもり、マディの成分表をくまなく見つめる。

 ……これの通りだと、三つの植物を合わせたら斑点病の薬を開発出来るはずだ。

 リプシム、トルキス、カランの三種類の植物。それぞれ、単体だと大して使い道がないが、何かと組み合わせることで大きな役割を担っている。

 ただ、熱し方や融合のさせ方によって爆発したり、無意味な薬になってしまうかもしれない。

 とりあえず、植物屋のポールの所へと足を運ぼう。お金はアーノルドに言えばなんとかなる。

 本を持って、僕は駆け足で図書室を出た。

 もう一度馬車に乗り、町へと向かう。

 僕一人だけで街へ行くのは初めてだ。心臓が少しうるさい。皆に度胸ある子供だと思われているけど、僕にだって緊張する事もあるし、怖いものはある。

 けど、こんなところで怯んでられない。気を引き締めないと。

 ガタンッと少し揺れて、馬車が止まる。「着きました」と御者の声が外から聞こえる。

 馬車から降りて、植物屋の入り口の前に足を進める。

 ポールは貧困村出身の人間が嫌いだ。それは前々から知っている。小さな恐怖心が僕を刺激する。前はアリシアに守られていたんだ、と改めて実感する。

 帰れって言われるかもしれない。水を掛けられるかもしれない。余計な心配が頭の中によぎる。

「それでも、行かないと」

 僕は覚悟を決めて、店の中に入る。僕が入った瞬間、カランカランッと鈴のような音が鳴る。それと同時に奥から眼鏡をかけた男性が出てくる。

「いらっしゃ」

 僕を見て、ポールは固まった。露骨に嫌な顔はしないが、「どうしたの?」と少し尖った口調。

 穏やかな印象だったが、情報屋として会った時に本性を見せてから、猫をかぶらないようになった。

「欲しい植物があるんだ」

「何の植物?」

 ポールは訝しげに僕を見つめる。

「リプシム、トルキス、カラン」

「その三つ? 何に使うんだ? トルキスなんて爆弾を作る際に使われるものだぞ。……ついに血迷ったか?」

 ポールが僕を全く信用していないのがよく分かる。きっと反逆の計画を立てているとか思っているのだろう。

 僕はじっと彼の目を見つめる。その圧にポールは少しだけ戸惑いを見せた。僕は真剣な声で彼に伝える。

「助けたい人がいるんだ」

 僕の声は静かに店に響いた。ポールは少し固まった後、考え込む。暫くの沈黙が流れた後、彼は口を開いた。

「その三つを使った薬なんて存在しないぞ」

「新薬だよ」

「……流石国外追放された令嬢の弟子だな」

 ポールは苦笑する。

「弟子じゃない。相棒だよ」

 僕は自分に言い聞かせるように即答した。その反応に彼は小さくため息をついた。どこか諦めたように、棚から植物を取り出す。

「あの子は不思議な子だったよ。国外追放されるなんて思いもしなかったさ。……彼女がいなくなってから色々と変わった。貧困村はなくなってこの町の皆は怯えているのさ」

「どうして?」

「治安が悪化するから」

「悪くなったの?」

 いや、とポールは首を振る。「ただ」と付け足す。

「ずっと不安を抱えたまま生活をしているのには違いない」

 貧困村の住人たちはデュークが用意した場所からは離れていない。だから、安心できるはずだ。

 そう言いたいのに、何故か言葉に詰まる。この世に完全に安全な場所などない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 純粋に必要な成分が入っている植物を混ぜ合わせるだけだと、本来マディには含まれていない成分も交じるので、余計な反応が起こったり危険な成分に変質したりする可能性もありますね。 作ってみるのはとも…
[良い点] おー、流石。自分の売っている商品の使用用途くらいはちゃんと把握してるのね。 [気になる点] 爆薬になる花をそんな簡単に売ってるのかぁ? それとも国の偉い人だから売ってあげてるのか? [一言…
[一言] ジルがこの国の宰相とか国の重役になっても全然違和感がないくらいの知識量だし前に進む勇気ある人間だと思う。
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