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デュークの言葉に僕は首を小さく傾げて、彼をじっと見つめる。デュークは口の端を上げる。
「マディの成分が分かった」
そう言って、彼は僕に数枚の紙を差し出した。風に微かに靡くその紙を僕は動けずにただ見つめた。
マディがどんな成分から成り立っているのか細かく分析されている。
「なんで、これ……」
僕は頭が混乱していて、言葉が出てこない。
デュルキス国にはマディがないはずなのに、どうして……?
こんな貴重な情報をどうやって手に入れたんだろう。
「昨日の夜にめっちゃ王宮の図書室漁ってたんだよ。おかげで寝不足だよ」
メルはそう言って、ふぁ~っと声を出しながら大きくあくびをする。デュークは全くそんな様子を見せない。
「よくあの巨大な図書室から見つけ出せたな」
「絶対にないと思ってたんだけど、デュークが一度どっかで見たことがあるからって付き合わされたの。それで、見つかったんだよね。本当にデュークの記憶力って怖いよね~」
ヘンリの言葉にメルは答える。
校則を変える準備をして、更に僕の為に時間を割いてくれたのかと思うと胸が熱くなる。
デュークの存在は『僕は一人じゃない』と強く思わせてくれる。アリシアが去って、じっちゃんが死ぬかもしれない運命にある中で、僕には最強の味方がいたんだ。
「ありがとう」
僕はそう言って、紙を受け取る。僕はしっかりとその紙を握りしめた。じっちゃんはもう助からないって言ってたけど、僕は諦めない。
この成分を徹底的に分析して、必ず薬を作ってみせる。
「ヘンリ、僕今日は家に帰るよ」
「ああ、何か困ったことがあればいつでも言えよ」
ヘンリの優しい声。僕はコクッと頷き、その場を後にする。
ジルの背中を見つめながら、メルがマフィンの最後の一口を口に入れて、グッと飲み込む。そして、一呼吸してから、口を開いた。
「アリアリに似てるね」
「似ようと必死なんだろ」
デュークがメルの言葉に答える。ヘンリが口を開く。
「魔法を使えないのに魔法学園にいるって、どれだけ日々プレッシャーを感じてるんだろうな。……何か爪跡を残さないといけないって。俺らは少しでも支えになっているのかな」
「ジルは自分を追い込みがちだもんね~」
「大丈夫だろ」
確信したデュークの声にメルとヘンリの視線は彼へと注がれる。
「ジルは必ずやってのける。アリシアがそういう人間なのだから。……それに、ジルはもうとっくに知識ではアリシアに勝っているしな」
「「え?」」
ヘンリとメルの声が重なる。
「ウィリアムズ家の書物はもうほとんど読んでいるだろうな。今度俺の家の図書室の出入りを許可させるか」
「まじか」
ヘンリはジルの読書量に驚愕するのと同時に、デュークがそこまでちゃんとジルのことを見ていたのかと、感心する。
「ジルが年下じゃなかったら、もっと素直に凄いって言えるのに~!」
メルは声を上げる。
「大人気なさすぎだろ」とヘンリは呆れた様子で突っ込む。
「ジルが美少女だったら、大好物だっただろ」
「さすが、デューク! 私、可愛い女の子大好きだからね~」
デュークの言葉にメルは目をキラキラさせて答える。
ヘンリは、メルのことは深く探らない方がいいな、と心の中で呟いた。




