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教室に残ったデューク、リズ、ヘンリ、メル、僕で話し合いをする。
デュークの魔法で誰も教室に入ってこないようにした。ネズミの腐敗した臭いもデュークが魔法で消してくれている。
デュークの魔力に底はないのか……。
それにしても、魔法って本当に便利だな、と羨ましく思った。魔法だけは努力で手に入れることが出来ない。
そんなことを考えていると、メルが「はいは~い」と手を挙げながら発言する。
「手っ取り早く、今から掲示板に新しい法律が出来ましたって紙でも張りに行く?」
「色々手順が必要だろ」
すぐさまヘンリが突っ込む。
「あのさ、僕らは学校の秩序を保たないといけないんだよね?」
「ああ」
僕の言葉にデュークは頷く。
「じゃあさ、法律にしなくてもいいんじゃない?」
「「「え」」」
デューク以外が驚きの声を上げる。
今まで法律を作ろうって流れだったのに、いきなりこんなこと言われたら、そりゃ、びっくりするよね。
僕は彼らに誤解を与えないように付け足す。
「アリシア派とリズ派が平民や貴族全般に広まっているわけじゃないんだから、学校の規則にすれば?」
「それだと、処罰重くできないじゃん」
僕の意見にメルは不服そうにする。
「次は死人が出るかもしれないんだよ~」
メルは僕らを脅すような口調で話す。
この先、アリシアとリズが国を動かす立場になれば、法律にした方が良い。けど、今、問題が起きているのは学園内だけだ。この事実は変えられない。
学園内のことを法律にしてしまうのは少し違う気がする。きっと、これがさっきから抱いていた小さな違和感だ。
「厳しい罰則を与えればいい。校則は生徒の安全を守る為にあるものでもある」
デュークの発言に皆が納得する。メルは、チェッと小さく舌打ちをするが、反論はしない。
「校則の名前はどうするの?」
リズの質問にメルは大きな声で答える。
「アリアリ派とリズっち派で暴力の争いは禁止! ただし論争は認める! 破れば、その唇を縫い付けてやる!」
いや、だめだろ。
「え、本当にそれで行くの?」
リズの表情が不安で覆われる。ヘンリも顔を引きつらせているよ。この中で冷静なのはデュークと僕ぐらいだろう。
「それでいいか」
え、いいの!?
驚きのあまり、デュークをガン見してしまう。まさか承諾するとは思わなかった。デュークが、僕と一緒の思考じゃなかった。
「やった~! 決まりだね!」
メルが歓喜の声を上げている。僕は何も言えずにデュークを見つめる。
デューク、適当だな! という視線を彼に向けるが、デュークは知らない顔をする。
これで、争いがましになればいいだろう、程度にしか思っていない。
まぁ、確実に争いはなくなるだろうけど、それでもこんな校則で大丈夫なの?
「なんかちょっと恥ずかしい校則だけど、いっか!」
「なんで、『いっか!』になるの? それに、ちょっとじゃなくて、かなり恥ずかしいでしょ!」
僕はもう耐え切れなくなって、キャザー・リズに突っ込んだ。
「そうかな~。けど、自分の名前が入った校則だよ? アリシアちゃんも喜びそうじゃない?」
その言葉に僕はアリシアの反応を想像してしまう。
確かに、彼女は、目をキラキラさせながら、「私の名前が入った校則!? 最高じゃない! ついにやったわ!」って大喜びするだろう。
……けど、それとこれはまた別だ。もうちょっと違う名前の校則にした方が良い。思想の違う者同士での暴力争いを禁ずる、とか。
なんでわざわざ個人名を入れるんだ。そして、どうして誰もそれを止めようとしない。
皆、ぶっ飛んだ脳を持ってるって知ってたけど、ここまでとは……。
ヘンリと目が合う。彼は僕の言いたいことを理解してくれているようで、グッと深く頷く。
助け舟だしてよ、という目線を送っても、俺には無理だ、という笑顔が返ってきた。
……兄が諦めるなよ。