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あれから、レオンとリオを地下牢から出して、私の小屋に移動させた。
眠たそうなリオに歩かせるのは少し気が引けたけど……。
今はヴィクターの部屋で寝ないといけないってことになっているから、私が小屋を使用することはあまりない。
二人はライを見て、その迫力に驚いていたけれど暫くすると慣れていた。
リオはライの側でぐっすりと眠りについた。ライは温かいからリオの症状が悪化することはないと思う。
私は二人にお別れを言って、その場を後にした。
ヴィクターの部屋に向かい、私も睡眠をとる。ふかふかのベッドが心地いい。
部屋にはヴィクターはいなかったが、そんなことは気にせずに私は目を瞑った。
ガチャッと誰かが扉を開ける音と共に目を覚ます。それと同時に戦闘態勢に入る。
小さな物音や微かな気配だけで、警戒するなんて、レオンより私の方が暗殺者っぽいわ。
太陽がまだ出ていない早朝。私の視界に金髪が入る。
「もう終わったのか?」
ヴィクターの澄んだ声が部屋に響く。
私はホッと肩の力を抜いた。ヴィクター相手に戦闘態勢に入るなんて……。
ベッドから降りて、私はヴィクターの前へ行く。
「どうだった? あいつ」
あいつ、とはヴィアンのことだろう。
なんて答えればいいのかしら……。正直に言ったら、朝からヴィクターの怒鳴り声を聞くことになりそうだし。だからと言って、嘘をついてもバレるわよね。
「どんな答えを求めてるんですか?」
「あいつの弱点を知りたいんだよ」
「蹴落とすってこと?」
ああ、と真面目な表情でヴィクターは答える。
これだから、まだ子供だって言われるのよ。もっとヴィアンみたいな余裕を持って欲しいわ。
「馬鹿みたい」
私の言葉に気分を害したのか「なんだと?」と片眉をピクリと反応させる。
別にヴィクターなんて怖くないんだから。
「蹴落とすなんて愚者がやること。正々堂々と自分の力で勝負することを考えたらどうです?」
「お前はどっちの味方なんだよ。それに俺は正々堂々と戦うつもりだ。けど、弱点を知っておいた方が良いだろ。あ、そうだ! あいつ、変な趣味あるだろ? それを暴いて」
……呆れた。人は焦ると、正しい判断が出来なくなるって言うのは本当なのね。
「私にガキって言うのもいいけど、王子の方がガキですね」
ヴィクターの言葉に被せるようにして私は声を発した。
家同士の争いがあったとしても、そこまでして王になりたい理由が理解出来ない。
「は?」
「王子は私を死到林で助けてくれたし、色々とよくしてくださったけど……、見損ないました」
「お前、自分が誰に何を言っているのか分かっているのか?」
もちろん、と笑顔で応える。
ラヴァール国の王子の気分を害して、喧嘩を吹っ掛けるなんて悪女っぽいじゃない!
「このままだと王になれませんよ。きっとヴィアン様が王になる。けど、彼は争いを求めていない。私の勘だと貴方に王位を譲るでしょう」
ヴィアンは王にはならない。王になる素質は誰よりもあるけれど、私にはヴィクターが王になる未来が見える。
けど、ヴィアンは王にならなくとも幸せを掴める。というか、もう幸せを掴んだって言う方が正しいかしら……。
「何が言いたい?」
彼は私の言葉に顔をしかめる。
「大人になれって言ってるんですよ、王子」
 




