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「で、どうやってリオを助けるんだよ」
レオンは体を起こす。
もう立てるのね……。普通の人ならまだ動けないはず。
本当に暗殺者として鍛えられてきたようだ。
「マディを探しに行く」
私の返答に彼は鼻で笑う。「無謀な」とでも言いたげだ。
「君は弟の面倒を見ていていいよ」
「……俺も一緒に行く」
「愛する弟はどうするんだ?」
私の質問に彼は言葉に詰まる。
今のリオを世話してくれる人はいない。彼はきっと地下牢で一人で過ごすことになる。レオンはきっと弟を一人ぼっちにさせたくないだろう。
「それでも、俺は行く。今、弟を助けられるのはお前だけなんだろ? なら、俺はお前を全力で手助けする」
嘘偽りのない瞳で私を見る。
……私はどうするべき?
早く決断しなければならないのに、迷っている私がいる。
レオンの気持ちはよく分かるし、尊重したい。けど、リオはまだ八歳の子どもなのよ。
レオンは私の迷いに気付いたのか、その場に跪いた。
「ディック・レオン、ここに忠誠を誓います。リア様を我が主としてこの身の全てをかけてお守り致します」
静かな夜に彼の澄んだ声が響く。
私に忠誠を誓うなんて……。まぁ、レオンになら騙されてもいいわ。
「僕も誓うよ」
私がそう言うと、不思議そうに彼は顔を上げた。月光を浴びながら、私はレオンに微笑む。
「絶対レオンとリオを死なせない」
この言葉が本当になるように、必ずマディを見つけ出してやる。
「そうと決まれば、リオのところに行くよ。地下牢から運び出さないと」
私はそう言って、足を進める。レオンが私の後をついてくる様子がなかった。
どうしたのかしら……。
立ち止まり、彼の方を振り向く。レオンは眉間に皺を寄せながら、私を少し疑わし気に見る。
「……何故俺らを助けてくれるんですか?」
私が彼の主になったからなのか、敬語で話してくれる。
まさかそんな質問をされると思っていなかったわね。私のことをまだ信じていないのか、それとも私が彼らを信じてないのか……きっと両方ね。
こちら側から歩み寄ってみようかしら。これでもしレオンに裏切られたとしても、私の判断ミスなだけ。見る目がなかったってことよ。
私はゆっくり目に巻いている布を取る。右目が解放されて、視界がより良好になる。
レオンは私を見て、目を丸くする。息を呑むのが分かった。
私の容姿に釘付けになっている人を見るのは楽しいわね。なんだか、悪女の虜になった少年って感じで、心が躍るわ。……まぁ、片目はないけれど。
改めて、目隠しって凄さを実感する。
性別を誤魔化せるもの。流石に顔を見られたら、男でないことを悟られる。私は悪役令嬢顔なのだから。いくら男っぽく振舞ったとしても、顔は変えられないものね。
これで女だと知られたはず。後は……。
パチンッと指を鳴らす。すると、空に浮かぶ雲が全て消え去った。満天の星が現れ、レオンは空を見上げる。
輝く星の下で、彼はただ黙って固まっていた。小さく「嘘だろ」と呟いた声が聞こえた。
初めて、アリシアとしての品格を彼に見せつける。私は口角を少し上げた。
「私はこの世で最も悪い女になりたいの」




