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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
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 その夜、私はメルビン国の少年達がいる地下牢へと足を運ぶ。

 手には柔らかい毛布と温かい湯の入ったポットを抱えて向かった。涼しい風が私の頬を撫でる。スゥッと息を吸って、階段を下りていく。コツコツッと地面を叩く私の足音が響く。

 湿気が漂う少し肌寒い場所。薄暗くあまり何も見えない。

 病人をこんなところで過ごさせるわけにはいかない。だからと言って、私が勝手に彼らを牢から出すことは出来ない。

「何しに来たんだよ」

 静かな空間に低い声が響く。私は柵ごしに兄の方と目が合う。韓紅の瞳が暗闇の中で私を捕らえる。

「弟は?」

「寝てる。邪魔すんなよ」

「これをかけてあげて、それとお湯」

 そう言って私は柵の隙間から毛布を入れ、ポットを差し出す。だが、彼は一向に受け取る気配がない。むしろ疑いの目を私に向けている。

 ああ、もしかして毒が入っていると思っているのかしら?

 猫舌だから、熱いの苦手なのよね。けど、ここは少しでも信用してもらう為に堪えないと。

 私は彼の不安をとるように、グッとお湯を一口飲む。

「これでいい?」

 彼はそっと私の手からポットを受け取った。スースーと静かに寝息を立てている弟に、毛布を掛ける。

 本当に弟想いなのね。だからこそ、今ここで彼に弟を失わせるわけにはいかないわ。

 深く傷つき、二度と立ち直れなくなる前に、何とかしないと。

「なんで良くしてくれるんだ?」

 彼は弟の方を見ながらそう呟いた。

「僕も闘技場から這い上がった人間だからね」

 私はそう言ってフッと口の端を上げる。

 ここは何としても信用を勝ち取らないといけない。彼らが使える人材かはまだ分からないけど、伸びしろはあるはず……。

 それにニール副隊長に任されたんだし、期待に応えたい。

 私の言葉に、え、と驚いた表情を私に向ける。

「実力があれば生き残れるんだよ。良い世界じゃない?」

「奴隷市場があるような国の何が良いんだよ」

 彼は鋭い目を私に向ける。

 確かにラヴァール国は奴隷市場はあるけど、非公式だし、犯罪よ。闇営業ってやつよね……。

 私もそれは早く阻止して、潰した方が良いと思っているわ。

「僕の国はね、這い上がることさえ出来なかった。トップはずっと変わらない。実力があってもずっとその能力は発揮できずに死んでいく。チャンスさえ与えられない」

 魔法を使えるか使えないかが全てなんだ、と付け足したかったが、止めておいた。そして、話を続けた。

「だから、この国はまだいい方なんじゃない?」

 私の言葉に彼は黙り込む。

 ……今考えてみれば、本当にデュルキス国がおかしかったのよね。国を出て初めて気づいたわ。

 あの世界が当たり前だったけど、他の国には魔法を使える人なんていないんだから。井の中の蛙大海を知らずってやつかしら。

 まぁ、デュルキス国は外交をほとんどしてなかったから、しょうがないわよね。

「何が望みなんだ?」

 彼の質問に私は笑顔で応える。「信用と信頼」と。

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