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苦しい……。
ジルから菌を貰ったのかしら。
喉が焼けるように痛いし、吐き気もするし、汗が止まらないわ。
一日で伝染するようなもんなの?
確かにあの村の菌への私の免疫力はゼロに等しいものね。
「アリシア、皆が来ているよ」
アランお兄様の声が扉の奥から聞こえる。
幻聴なのかしら、それとも本当にいるのかしら。
「アリシア?」
声が出ないわ。喉が痛すぎるのよ。
ああ、私、このまま死ぬのかしら……。
「アリシアいるのか?」
扉の開く音がした。
私は意識が朦朧としたままアランお兄様の方を見た。
「アリシア!! 大丈夫か!?」
大丈夫じゃないわ。それより大きな声を出さないでください。
私は唸り声を上げてアランお兄様に助けを求めた。
「誰か!!」
アランお兄様が叫ぶ。頭も耳もより痛くなりますわ。
何人かが走ってくる振動を感じる。この振動ですら私を苦しめるのよ。
「どうしたんだ?」
アルバートお兄様の声が聞こえた。
もう目も開けられないわ。私はそのままベッドで蹲った。
「アリシアが凄い熱なんだ」
「あのゴリラ級に元気なアリちゃんが!?」
殺意が湧きましたわ、カーティス様。
「とりあえず、熱を測ろう」
アルバートお兄様が私の額に手をかざした。
「三十九度……」
え、どうやって測ったの。魔法?
そういえば、熱を測れる魔法があったような気がするわ。
いつ使うんだろうって思ったけど、役に立つものなのね。
「かなり高熱だな」
デューク様の声が聞こえた。
「確か、倉庫にジョザイアがあったよな?」
私はアルバートお兄様の発言に耳を疑った。
嘘? ジョザイアって家にあったの?
私が町に行った意味! ……なんだか急に呼吸が苦しくなってきたわ。
「アリ、大丈夫か?」
「アラン、倉庫からジョザイアを取ってこい」
「とりあえず、俺達は部屋から出よう」
「僕達に菌が移る事はないけどね~」
ああ、もう誰の声かも分からないわ。
部屋から出てくれるのはとても有難いわ。喋り声ってこんなにも人を苦しめるのね。
というか、今なんておっしゃいました?
菌が移る事はない? どうして?
なんで私だけこんなに菌に苦しめられているの。だめだわ、頭が回らない。
悪女は弱いところを見せたらだめだけど、今はしょうがないわよね。
だって、もう死にそうなんだもの!
こんなにしんどいのは生まれて初めてよ。
アルバートお兄様の剣のスパルタ練習なんて比じゃないわ。
そんな事を考えていたら、いつの間にか眠りに落ちた。
ガチャと扉が開く音で目が覚めた。
さっきよりも頭痛が酷くなっているわ。誰かにずっとトンカチで殴られているみたいよ。
頭がかち割れそうだわ。私、このまま死ぬのかしら……。
前世も長生きしていないし、今回なんて十歳で死んでしまうのよ。残酷だわ。
ダメよ、諦めないで、私!
世の中で一番の悪女になるのよ! 歴史に残る悪女になるのよ!
まだヒロインにすら会っていないのよ!
こうやって心を鼓舞させても苦しいのは変わらないわね。
それにしても入ってきたのは一体誰なのかしら。
私は薄く目を開けた。
……デューク様?
微かに澄んだ青色の髪が見えた。




