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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
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 街をドレス姿で歩きまわると思っていたけれど、ヴィアンはベンに会えたことで満足したようだった。

 もしマントなしで街を散策していたら、とんでもなく目立っただろう。でも、いつかそんな日が来てもいいかもしれない。

 立場なんて考えずに、好きな格好をして、ただ注目を浴びて楽しむ為に街に出る日が来ることを願うわ。

 ヴィアンは、特に行きたい場所もなかったみたいだから、私達は帰ることにした。

 何より私は斑点病にかかっている小さな少年が心配だった。

 とにかく彼の体を冷やしてはいけないわ。あんな不衛生な場所で閉じ込めたら、どんどん症状が悪くなるもの。

 もしかしたらヴィアンは私が帰りたがっているのを察してくれたのかもしれない。

 城に着き、無事御者にもバレず街から戻ってくることが出来た。空はもう暗闇に覆われていた。自然とあくびが出る。

 あっという間に一日が終わってしまったわ。

 私達はこっそりとヴィアンの部屋へと戻った。丁寧にドレスを脱ぎ、いつものリアの格好へと着替える。

 ラヴァール国では絶対にドレスなんて着ないと思っていたけれど、思わぬことが起こるものね。

 ヴィアンは先に着替え終えて、残っていた仕事に取り掛かっている。彼のヴィヴィアンからヴィアンに切り替えるスピードは本当に凄い。人が変わるようだ。

 私は着替え終えて、ヴィアンの元へ行く。彼は私が来たことに気付き、手にしていた書類をバサッと机の上に置いた。

「これで暫くお別れね」

 ヴィアンは寂しそうな表情を浮かべる。

 死にに行くわけじゃないのに……。まぁ、でも、命を懸けてマディを探しに行くんだけど。

「短い間ですが、お世話になりました」

 私は深くお辞儀をする。

 本当にヴィアンと一緒に働けて良かった。彼の仕事ぶりを間近で見ることが出来て、刺激を受けることが出来た。

 ここに来た理由がヴィクターに送り込まれたっていう不純な動機だけど、むしろ彼には感謝しないといけないわね。ヴィアンという素晴らしい人に出会えたのだもの。

「何よ、急に畏まって」

 少し困惑するヴィアンの声。私はそっと頭を上げる。黄緑色の瞳と目が合う。

「王子の元で働けたことをとても光栄に思います」

 私がそう言うと、ヴィアンの顔が真剣なものになっていく。ヴィヴィアンの要素が消えていった。

「私もお前と働けたことを誇りに思う」

 ああ、なんて嬉しい言葉なのかしら。ヴィアンからそんな言葉を頂けるなんて!

 この言葉が最高の財産ね。

「ヴィクターの元でもっとしごかれろよ。アリシアがもっと成長するのを楽しみにしている」

 彼はニヤリと口角を上げる。私はそれに満面の笑みで応えた。

「必ずご期待に添えて見せます」

 しっかりと互いの目を見つめ合う。

 暫くして、私は軽くお辞儀をし、その場から立ち去る。部屋を出たのと同時にヴィアンが小さく呟いた声が私の耳に響いた。

「絶対に死ぬなよ」と。

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