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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
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 目的地に着き、馬車が緩やかに停車する。

 私が先に馬車から降りて、安全を確認した後、ヴィアンが馬車から降りてくる。 

 いくら女装してマントを着ているといっても、ヴィアンはラヴァール国の第一王子。常に護衛しなければならない。私一人で彼を守ってみせる。

 まぁ、今回は安全な外出だと思うけれど……。

 ヴィアンは馬車から降りてくるなり、店の前でじっと固まる。

 薄いクリーム色の建物に、細い文字で『リルトン』というピンク色の看板。センスのいいお洒落なお店だ。

 私が店に近付き、扉を開けようとすると「アリシア」とヴィアンが小さな声で私の名前を呼んだ。

「私が開けるわ」

 ヴィアンの覚悟ある表情がしっかりと目に入る。私は彼に道を譲った。

 彼は扉をグッと引く。カラカランッと鈴が鳴る。フローラルの柔らかな匂いが漂う。店内は可愛らしくてとても高級感がある。

 優美なマダムが通っていそうだわ。

「いらっしゃいませ~」

 店の奥から背が高く、身なりが整った女性がコツコツとヒールを鳴らしながら歩いてくる。

 背筋が良く、歩き方が洗練されていて、流石一流の店って感じね。

「何かお探しでしょうか?」

 その女性はニコッと営業スマイルを私達に向ける。

「ビルに会いに来たの」

 ヴィアンの呟いた言葉に女性店員は一瞬固まったが、すぐに口を開いた。

「申し訳ございません。店長と会うことは」

 女性店員の言葉を遮るようにヴィアンは持っていたカードを彼女の顔の前に突き付けた。

 人差し指と中指の間に挟まっているカードは真っ黒のカードに赤い文字で『リルトン』と書かれていた。

「も、申し訳ございません! 今すぐビル様のお部屋へとご案内します」

 ……ブラックカードってVIP会員的なものなのかしら。常連のお客様とか?

 まぁ、ヴィアンの立場を考えると大物のお客様扱いになるわよね。だって、王子なんだもの。

 私達は女性店員の後について、ベルベットの生地がひかれている真っ赤な階段を上っていく。

 ヒールなんて久しぶりに履いたから、躓きそうで怖いわ。

 女性店員は白い扉の前で立ち止まり、扉をコンコンッと叩く。

「ビル様、お客様です」

「……客? 通せ」

 扉の中にいる人物はぶっきらぼうな様子でそう答えた。

 女性店員は扉をゆっくりと開けて、「どうぞ」と丁寧にお辞儀をする。

 ヴィアンに続いて、私は部屋の中へと足を踏み入れた。

「誰だ?」

 大きなソファに座っている男性が私達の方へ視線を向ける。彼の前にある背の低い机には溢れんばかりの書類が散らかっていた。

 ……沢山のデザイン案。

 目の前にいる男性が描いているとは信じがたかった。

 歳は七十歳ぐらいかしら。白髪の髪を一つにまとめていて、いかつい顔をしたお爺さん。身長も高いし、ガタイも良い。

 鍛冶屋職人って言われた方がしっくりくるわ。

 私はマントを脱いでお辞儀をする。

「私の名前は……」

 あ、女性の時の名前を全く決めていなかったわ。……私の名前って何!?

 突然、バサッとマントが床に落ちる音が聞こえた。

 隣を見ると、真っ赤なドレスを着たヴィアンが目に入った。彼の横顔は少しこわばっていたが、とても綺麗だった。

 白い肌に赤いドレスが良く映える。肩幅を隠す為に、白いファーを巻いているけれど、元々骨格がゴツゴツしていないから、本当に女性に見える。

 店長は、ヴィアンを黙って見つめたまま、手に持っていた紙をそっと机の上に置いた。

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