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ラヴァール国で第一王子の立場。それは決して誰にも弱さを見せてはならない。
それは私も同じ。五大貴族のウィリアムズ家の令嬢として常に強くなくてはならない。
気品を保ち、孤高であることは当たり前のことだ。ヴィアンは私が想像するより何倍も心が強い人だろう。
それでも、たった一人に本当の自分をさらけ出すことが出来るということは救われる。私には、デュルキス国で身近に沢山の仲間がいたから、寂しいなんてことは感じたことはなかった。……けど、ヴィアンは違う。彼はずっと孤独だったのだろう。
私の言葉がなくても、彼はこの世界で生きていくことが出来る。でも、ラヴァール国の第一王子として生きていくことは『彼らしさ』を消すことになる。
ラヴァール国にヴィアンは必要でもヴィヴィアンは必要じゃないもの。
それが私達の生きているこの世界の理。
「どうして私に良くしてくれるの?」
ヴィアンはギュッと赤いドレスを胸のあたりで抱きしめながら私を真っすぐ見つめる。
吸い込まれそうな曇りのない瞳。悪女らしい言葉を考えても、何も出てこない。
嘘なんて許されないその視線に正直に答えるしかない。
「……ヴィヴィアンに少しでも生きやすい世界を与えたくて」
私がそう言うと、彼の瞳が少し潤うのが分かった。ヴィアンでいる時は、決して見せない表情。
本当の彼と出会えたなんて光栄なことだわ。
「良い人なのね」
「良い人なんかじゃ……ないわ」
少し言葉に詰まり弱々しくなる。私は良い人なんかじゃない。
けど、いくら悪女になりたい私でも分かる。今の私は彼にとって良い人だ。生まれて初めて良いことをしたのかもしれない。
「嬉しくなさそうね」
「私、良い人になりたいなんて思ったことないの。ただ……」
「無自覚って本当に罪よね」
「え?」
ヴィアンが小さく発した声を聞き取れなかった。
「いえ、何にもないわ。……厳しさや強さの中に優しさがある。それに気付ける人間は僅か。気付いた頃にはもう遅いこともある。国民は国外追放されてきた貴女を悪女と呼ぶかもしれない。けど、それは表面的なもの。本当の悪はもっと根強く、我々を欺こうとするのよ」
……あら、ラヴァール国の王子に私は悪女じゃないって言われてしまったわ。
まぁ、デュルキス国では私は極悪令嬢ってことになっているからいいかしら。ここでは、男の子の振りをしないといけないし。
「本当の悪をこの国で学ぶべきかしら……。そしたら、さらにグレードアップして帰国できるわよね」
私の言葉にヴィアンが顔をしかめる。
「何を言ってるのよ。貴女は貴女の信念を貫きなさい。……アリシアはいつも輝いているんだもの。羨ましいわ」
「ヴィヴィアン~~!」
私は思わずヴィアンに抱きつく。彼は「もう、しょうがない子ね」と言いながら頭を優しく撫でてくる。
これじゃあ、友って関係じゃなくて、親子になってしまっているわ……。
でも、居心地がいい。
「さぁ、早く着替えて街へ行きましょ!」
ヴィアンのいつもより高い声が部屋に響く。
私達はドレスに着替える。アクセサリーを付けるのはヴィアンが手伝ってくれた。
慣れた手つきで彼はイヤリングを自分の耳に付ける。その仕草がとても色っぽくて、つい見惚れてしまう。ヴィアンが私の視線に気づいたのか、目が合う。
「何よ?」
「私もそんな色気を出せるようになりたいわ」
ヴィアンは私の胸元へと視線を落とす。言いたいことは一瞬で理解出来た。思わず顔が赤くなる。
「……ちょっと! しょうがないでしょ! 私は標準よ! 皆が大きすぎるのよ!」
「訓練しやすいし、男装ってバレにくいからいいんじゃない?」
どんなフォローなのよ。
今まで誰にも突っ込まれたことなかった。私は別に小さくはない。ただ、私のライバルのリズさん。彼女がかなり大きいだけなのよ。流石乙女ゲームのヒロインだわ。
大きくため息を吐く。もう、胸のことは考えないようにしましょ。
「色気は胸で決まらないもの」
「確かにそれもそうね。……それに、私が思う色気って見た目じゃないわよ」
「じゃあ、どうして視線下げたのよ」
彼は何も言わず小さく咳をして誤魔化す。
まぁ、一般的な色気って言ったらそうなるか……。
「じゃあ、ヴィヴィアンの言う色気って何よ」
「内面から湧き出るもの。人を惹きつける逆境で咲き誇る花のような……まさに貴女ね」
彼はそう即答した。
……今、私って言った?
「行くわよ」
「え、ちょっと……」
ヴィアンが言った言葉の意味を考える暇もなく、誰にもバレないように部屋をこっそりと出た。
こんにちは! 大木戸いずみです!
大変長らくお待たせして申し訳ございません。(TT)
こんな大変なご時世ですが、頑張っていきましょ~~
いつも読んでいただき本当に有難うございます!__
とっても幸せです!!