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「ジル! おい、ジル! しっかりしろ!」
ヘンリの大きな声が耳に響く。気だるい。全身に鉛を吊るされたかと思うぐらい体が動かない。
僕はいつの間に眠ってしまったのだろう。
ゆっくりと目を開ける。心配そうに僕を見るヘンリの顔が視界に入ってくる。そのすぐ後ろにデュークが見えた。
ヘンリに抱きかかえられて、何とか僕は体を起こしている状態だ。
「ジル! 大丈夫か? ……とりあえず、この薬を飲め」
そう言って、ヘンリは薄い水色の液体が入ったコップを僕の口に近付ける。慌てている彼に、僕は大丈夫だと伝えたいが、声さえも思うように出ない。
僕はヘンリに従って、コップに口をつける。味のしない薬を飲み込む。
「即効性はないが、しばらくすると体調が少し良くなる」
デュークがそう言ったのと同時に、僕は彼らに迷惑をかけたのだと実感する。
「……ごめんなさい」
「何がだ?」
ヘンリは不思議そうな表情を僕に向ける。
「迷惑かけないように勉強してたのに、結局ヘンリ達の手を煩わせてしまった」
「このバカ! 何言ってんだ!」
突然のヘンリの怒鳴り声に僕は固まってしまう。彼は話を続ける。
「お前はまだ子どもなんだ。俺らに沢山迷惑かけろ。もう少し俺らを頼れ! なんでそんなに抱え込むんだ。悩む前に俺のところに来い!」
「でも僕は役に立たないんだよ。役に立つからあの村を出ることが出来たのに……。皆に敵わない」
僕の弱々しい声が図書室に響く。少し間があった後、デュークが僕に声を発した。
「ジルは俺の知っている中で誰よりも気が利く。聡明で周りをよく見ているからこそ、空気を読める。自分勝手で良いんだ。アリシアがいなくなって寂しい思いを押し込めて、この世界で奮闘するのは素晴らしいことだ。何度も言っているが、ジル、俺はお前を頼りにしている。リズの魔法が解けても、ずっとお前は必要だ。だが、この重みに辛くなったらいつでも弱音を吐け。気持ちをぶつけろ。それで俺達がお前に失望することは絶対にない」
珍しくデュークが饒舌だ。とても僕のことを心配してくれていたのだということが分かる。
彼らは僕が求めていた言葉をくれる。その言葉を言われるだけで心が軽くなり、こんなにも救われる。
じっちゃんの死が近いことを知って、学園で僕の価値を失って、恐怖と孤独に焦って、潰れてしまうところだった。
アリシア、君が僕に与えてくれた居場所はこんなにも温かかったんだね。
「ありがとう」
僕はそれしか言えなかった。必死に言葉を探した中で、それしか出てこなかった。
魔法がない僕の気持ちはきっと彼らに一生理解出来ないと思う。それでも、僕を必要としてくれる人がここにいる限り、僕は前に進める。