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学校に行かずに三日ほど徹夜する日々が続いた。食事はロゼッタが持ってきてくれた。
僕に気を遣ってくれているのか「ご無理せずに」という言葉をいつもかけてくれる。そして、その場をすぐに立ち去る。ヘンリ達には一切僕に関わらないように手紙を部屋の前に置いておいた。
僕が息を抜ける瞬間は、ご飯を食べるその瞬間だけだった。それ以外は全て勉強に時間を費やす。
学園がどうなっているかなんて分からない。けど、あの場所にもう僕の居場所はない。だって、皆が正気に戻ったのだから。
……最低なことを少し考えてしまった。ずっとキャザー・リズの魅惑の魔法がかかったままで良かったのに。そんな馬鹿なことが頭をよぎる。
学園のことはきっと彼らがなんとかしてくれる。僕はじっちゃんを助ける薬を開発してみせるんだ。
頭が回らない時でも、何とか自分の気持ちを鼓舞させて、読書に没頭した。
眠気に襲われそうになった時は、歩きながら本を読んだ。それぐらい一刻も早くじっちゃんの命を助けなければならない。
そして、誰よりも知識をつけなければならない。僕は魔法が使えない。それならその分、頭脳明晰でなければならないんだ。
ある文章が目に留まる。僕は本を捲る手を止めて、じっくりとそのページを読み込む。
「魔法の国、デュルキス国?」
この本によると、魔法を扱うことのできる国はデュルキス国だけ。それ以外の国は魔法が使えない。ラヴァール国に魔法というものがないことは知っていたけど、まさか他の国もとは思わなかった。
……ということは、デュルキス国以外は、完全なる実力主義?
奴隷から上流階級まで上りつめた人物の話などが書かれている。魔法があれば貴族である、なんて馬鹿げた定義をしているのはデュルキス国だけだ。
ずっとデュルキス国が正しいと思っていたけど、いざふたを開けてみたら違う。おかしいのはこの国なのかもしれない。
けど、これが正しいなんて証拠はどこにもない。実際本当にデュルキス国以外の国に魔法がないなんてことは分からない。
早くアリシアから色々な話を聞きたい。……いや、でも今のままでの僕では彼女に会えない。
僕は違う本を手に取り、斑点病の症状を詳しく理解する。
ありとあらゆる斑点病の本に目を通す。寝ないようにと必死に目を凝らす。とてつもなく瞼が重い。
手を思い切り指でつねって、何とか痛みで起き続ける。こんな方法は正しくない。それは重々承知だ。
それでも、僕は新しい本へと手を伸ばす。その瞬間、あまりの疲労のせいなのか、上手く立てない自分に気付いた。
そして、フラフラとよろめいた後、意識がプツリと途切れた。