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「「落とし穴?」」
アランとヘンリの言葉が重なる。やっぱり双子だな。
「土魔法の私にお任せあれ! 彼らが騒いでいる所にポカッと穴をあけて、一気に捕まえてみせるよ」
得意気に話すメルに向かって、エリックが口を開く。
「それからどうするんだ?」
「もう二度とうるさくしないようによく言い聞かせたらいいんじゃないかな」
満面の笑みでメルは答える。
本当に彼女は変わっている。恐怖政治みたいなことを言い出す彼女に皆は若干引いているが、彼女はそんなことを気にも留めない。
そんな中、キャザー・リズが声を発した。
「私は、もっと平和的に解決したいわ。具体的な案は今考えられないけど、強制的にやめさせても彼らの怒りは抑えることは出来ないと思うし」
「俺もリズの案に賛成だ」
デュークがキャザー・リズの言葉に同意した。メルはチッと軽く舌打ちする。
まさかデュークがリズに賛同するとは思わなかったけど、今回はリズの言っていることは分かる。
武力行使をしても、長続きはしないし、完全に解決できるわけがない。
「じゃあ、今からその具体的な案を考えるってことでいいか?」
エリックの言葉に全員が頷く。
きっと、この問題はすぐには解決しないだろう。
長期戦になると思う。一時的に騒動を治めたいのであればメルの案で良いと思うけど、そういうわけにはいかない。
僕らは、その後も沢山話し合ったが、これという解決策は出てこなかった。
ゲイルがどんどん論理的な案を出してくれたが、それらで現在、感情を暴走させている生徒達を抑えることは困難だと思われた。
僕はそんな中、何の案も口に出来なかった。
正確な判断を出来る脳を取り戻し、魔法を使える彼らが何人もいるのだ。僕はそこにいちゃいけない気がした。
今まで感じたことのない劣等感に包まれる。
その日は結局解決策は見つからず、解散した。今日はウィリアムズ家に帰る。
キャザー・リズにじっちゃんの病気を治す方法を聞くのも忘れるぐらいに、僕は自分のことで精一杯になっていた。
自分の存在価値を見失ったことにショックを覚える。
夕食も食べずに、僕は図書室に引きこもった。とりあえず、今は一人になりたかった。
魔法が使えない僕は、あそこにいる誰よりも賢くなければならない。年齢を言い訳にしちゃだめだ。
僕は必死に本を読み漁る。膨大な量の知識を頭に詰め込む。
寝る間を惜しんでこんなことをしているなんてアリシアはきっと怒るだろう。
けど、きっと彼女には今の僕の気持ちは理解できないだろう。置いていかれることの怖さなんて僕しか分からない。
アリシアもデュークもじっちゃんも、皆僕よりずっと先を歩いているんだ。
キャザー・リズがもがいていた理由が分かる。出遅れている分、もっと勉強しないといけない。
この方法が良くないことだと分かっていても、せずにはいられないのだ。




