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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
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 その夜私は荷物を持ってウィルおじいさんの家へ向かった。

 男の子は昨日よりも苦しそうな表情で呻いていた。

 ウィルおじいさんは男の子の体を一生懸命拭いてあげていた。

 私はベッドに近づき、鞄から瓶を取り出し、ウィルおじいさんに渡した。

「これは何だい?」

「綺麗な水です」

 ウィルおじいさんが小さな声で、有難う、と呟いた。

「それからこれも」

 そう言って、ジョザイアも渡した。

 ウィルおじいさんはそれを手でどんなものか確認した。

「ジョザイアか……」

 嘘でしょ。手で触っただけで何か分かるの?

 凄いなんて領域をはるかに上回っているわ。

 ウィルおじいさんはジョザイアを瓶の中に入れた。

 ジョザイアは溶けて、水が薄い緑色に変わった。

 ウィルおじいさんはもがいている男の子の口に瓶を近づけ、数滴口の中に入れた。

 男の子は少し落ち着いた。

 ジョザイアは口に含んで数十秒で効果が出るのよね。

 昨日男の子の頭に巻いたドレスの切れ端をとった。

 そして持ってきた塗り薬を膿みかけの傷口に塗り、その上から包帯を巻いた。

 こんな傷が日常茶飯事でできるのよね。

「アリシア、有難う」

 ウィルおじいさんはもう一度私にお礼を言った。

「私は……、自分の利益のためにだけ動いているのでお礼は不要ですわ」

 そうよ、私は自分の利益を最優先させる女なの。

 男の子を助けたのだって、ただ賢い少年と話してみたかっただけなの。

 ウィルおじいさんは固まった。ウィルおじいさんには軽蔑されたくないけれど、嘘はつきたくないの。

「それでも、有難う」

 ウィルおじいさんは温かい声で私にそう言った。

「彼の名前は?」

「ジルじゃよ」

「ジル……、は、何歳なの?」

「六歳じゃ」

「ご両親は……」

「この村の者に殺されたよ」

 殺された?

 病気で死んだんじゃなくて殺されたの?

「アリシア、ここはそんな所だ」

 そう言ったウィルおじいさんの声は若く覇気があった。

「罪には、」

「ならない」

 じゃあ、ジルは六歳で孤児なの? それが普通なの?

「そんなのおかしいですわ」

「ああ、わしもそう思う。けどどうにもならんのじゃ」

 ヒロインは何をしているの? 早くここを改善してよ。

 ……どうして私ヒロインに頼っているのかしら。

 でも私がここを改善しても私に何のメリットもないじゃない。

 ああ、もう! 私は強い芯を持った悪女なの。

 世の中で一番の悪女になるって決めたんだから。それなのにどうしてこんなに心がモヤモヤするのかしら。

「今日は本当に有難う」

 ウィルおじいさんはそう言って私の頭を撫でた。

「これを……。二人で食べて下さい」

 色とりどりのマカロンが詰まった袋をウィルおじいさんに渡した。

 私の声に覇気がなかったのを感じたのか、ウィルおじいさんはもう一度私の頭を撫でて、大丈夫じゃよ、と呟いた。


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