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「おい、ヘンリ、もうちょっとそっちに寄れよ」
「俺はずっとここに座ってたんだよ。アランは床にでも座ってろ」
いつも旧図書室で余裕ある雰囲気で話し合っていたけど、人数が増えたことによって一気に窮屈になった。
ヘンリとアランが言い争っているのを止めるかのように、アルバートが笑顔で彼らに魔法をかける。
五大貴族なだけあって、アルバートも魔力が強い。一瞬にして、アランとヘンリが宙に浮かぶ。
「これで、座る面積が増えた」
アルバートはそう言って、僕らの頭上にアランとヘンリを浮かばしたまま、席に着く。
……兄の力は凄いな。
「おい! アル兄、降ろせよ!」
「アランは分かるけど、俺はおかしいだろ!」
「口も閉じることも出来るけど?」
アルバートは含みある笑みで彼らに向かってそう言った。
確かに、ずっとアランとヘンリの言い合いが続いていた。双子がゆえに起こる口喧嘩だと思って黙って聞いていたけど、暫く終わる気配がなかった。正直、アルバートがいてくれて助かった。
僕はヘンリの味方だけど、話が進まないってなると、宙に浮いておいてもらおう。
「なぁ、リズ、助けてくれよ」
アランがキャザー・リズの方を見る。彼の言葉にヘンリは怪訝な表情を浮かべる。
「リズに助けを求めるのか?」
「しょうがねえだろ。この中でリズが一番魔力強いんだから」
「……それもそうか。なぁ、リズ、助けてくれ」
あっさり納得したな、ヘンリ。この中では確かにキャザー・リズの魔力は一番かもしれないけど、デュークの方が圧倒的に強いからね?
僕は心の中でそう呟く。
「はぁ、しょうがないわね」
キャザー・リズは指を鳴らす。それと同時に彼らは近くにあった本棚の上に腰を下ろした。本棚は丈夫に出来ており、揺れることなく、男性二人を支えている。
助けてあげても、一緒の席に座らせてあげないんだ。キャザー・リズってこういう時は大概「流石に可哀想よ、窮屈になってもいいから彼らを座らせてあげましょ」って言うと思っていた。
……完璧な聖女を演じることがずっと精神的に苦痛だったんだろうな。
「それじゃあ、話を進めるか」
デュークが口を開く。一気に場の空気が引き締まる。
改めて、デュークの威厳の凄さに驚く。五大貴族の人間は今まで間抜けばかりだと思っていたけど、実際はそうでなかったことが分かる。
瞬時に、デュークの醸し出す空気を察して、それぞれが真剣な表情になる。
確かに、全員が生徒会メンバーに選ばれるだけのことはある。貴族は馬鹿ばっかりって批判していた時もあったけど、五大貴族は違う。
彼らは生まれた時から、しっかりと厳しい教育を受けてきているんだ。
「生徒達の行動を抑制する為にしなければならないことよね?」
リズの言葉にデュークは頷く。
「じゃあさ! 落とし穴作戦なんかはどう?」
メルは目をキラキラさせながらそう提案した。




