346
僕はキャザー・リズに会う為に、今日も魔法学園へと足を運んだ。
治癒魔法の彼女だ。奇跡を起こしてくれるかもしれない。
こんな時だけ、彼女を頼るなんて自分でも最低だと自覚している。けど、そんなプライドさえ捨てれるぐらい僕はじっちゃんを救いたかった。
デュークには何も言わなかったが、僕の様子で何かあったことは勘づいていると思う。
冷静でいられない。キャザー・リズに会って、安心したい。「出来ないことなんてない」って言って欲しい。
綺麗事なんて大嫌いだけど、それでもそう言ってもらいたい。
デュークは黙って僕の様子を見ていた。きっと、僕が言うまで彼は何も僕に聞かない。デュークはそういう人だ。
だからこそ、彼と一緒にいるのは心地いい。
学園に着くなり、何やら騒がしかった。生徒達の大きな声が耳に響く。男子生徒も女子生徒も何か叫んでいる。朝から力強い声が学園に広がる。
……また何か事件が起きたのか?
この学園はいつになったら落ち着くのだろう。
デュークと顔を少し見合わせた後、僕らは生徒が集まるところへと足を進めた。
「キャザー・リズは俺達を騙していた!」
「彼女に制裁を!」
「キャザー・リズなんてただの平民だ!」
何あれ……。
中庭に「ブラックエンジェル」と書いた鉢巻をして、物凄い形相をした生徒達がいる。
やっぱりあの名前って背筋に悪寒が走るほどダサい。……って今はそういうことじゃない。
きっと、彼らは一部の過激派だろう。アリシア派だった人達が昨日のキャザー・リズの行動を見て憤りを感じたってとこかな。
やっぱりあんなに平和に解決できる話でもなかったか。あんな方法で全てが丸く収まるなんて思ってもなかったけど、まさかこんな状況に展開するとは……。
彼らの勢いを見ていると、デモでもするのかな。アリシアは絶対に望んでいないと思うけど。
どうしてこの学園の人間は馬鹿ばっかりなんだ?
もう少し頭を使って欲しい。こんな人間が魔法を使えるって理由だけで権力を持つからこの国はダメになるんだ。
他の国のことは詳しくないけど、魔法を使えるのは確かに凄いことだけど、それと国の上に立つのとは全く違う。
「なんだあれ」
隣でデュークが眉間に皺を寄せて、露骨に嫌な表情をしている。
そりゃ、あんな気持ち悪い集団が作られていたらそんな顔にもなるよね。
「アリシア派? なんだろうけど、ちょっとやりすぎだよね」
「アリシアが見たら、気分を害するだろうな。とっとと片付けるぞ」
デュークはそう言って、彼らの方へと近づいていく。「だよね」と言って僕は駆け足でデュークの後を追った。
今はキャザー・リズを探すのは後回しにしよう。




