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「これも似合うんじゃない?」
「あ、でもこのブルーなドレスも捨てがたいわね」
「それともこっちかしら」
ヴィアンが私の前にドレスを沢山並べて吟味する。私は何も口を挟まず、ただ彼の言うとおりにする。
もう数回色々なドレスに着替えている。その度に沢山褒めてくれるから、私も決められない。
このままじゃ、街に出る前に日が暮れてしまう。……仕事はあんなに早いのに、ドレスを決めることに関してはこんなにも時間がかかるのね。
「アリシアは何色のドレスを着たいの?」
「私は……、黒かしら」
「黒ね。気品のある黒が貴女に似合うわね。強い女は大概黒か赤を選ぶのよ」
「何その胡散臭い情報。どこ調べなのよ」
「もちろん私調べよ!」
彼が嬉しそうにそう言って、大量にあるドレスの中から、ラメの入った黒いシンプルで大人っぽいドレスを取り出した。
……これを幼い頃に着てたの!? まぁ、ヴィアンなら間違いなく似合うだろうけど。
というか、このドレスを着て街で目立たないわけがない。
私はヴィアンにドレスを渡され、ドレスの品質を確認するために、ゆっくりと生地に触れる。
柔らかく、最高級の生地だということがすぐに分かる。
「そのドレスはアリシアに絶対に似合うと思うわ」
ヴィアンはそう言って、私に笑顔を向ける。
本当にドレスが好きなのね。……私が出会ってきたどの女の子よりも美意識が高いわ。
「ヴィヴィアンは何色にするの?」
「…………貴女が私のドレスを選んでちょうだい」
「私が?」
「是非私に似合うドレスを選んで欲しいわ! 今日の外出の格好はアリシアのセンスに全て任せるわ」
急に難題出してこないで……。
決して、ファッションセンスがないわけではない。ただ、ヴィアンを相手って言うのがね。
プロを前にして素人があまりしゃしゃり出ない方がいい……って、あれ?
悪女ならどんどん前に出ないといけないのに!
ヴィアンといるとそんな気持ちがいつの間にかなくなっていた。悪女は常に目標であり、それが揺るぐことはないけど、彼は何か違う。
戦友? というのが、正しいのかしら。
「何をそんなに考えているの?」
黄緑色のガラス玉のような瞳が私をじっと見つめている。
「何もないわ。ヴィヴィアンに似合うドレスを考えていただけよ」
私はそう言って、部屋にあるドレスを観察する。
こうなったら、彼に最も似合うドレスを探し出して見せる。気を抜くなんてだめよ、アリシア。
悪女は常に自分が納得して、満足できる答えを見つけ出すのだから。
私は必死に沢山のドレスの中から選抜していく。いくつかに絞り、彼の前にドレスを持ち上げて合わせる。
少しでも違うなと感じたものは消去していく。
……正直、ヴィヴィアンはどのドレスでも似合うのよね。
だから、選ぶのが大変だ。私は何枚か試した後、ついに見つけた。
「これだわ」
最も彼に合うドレスを見つけ出した。
誰も文句が言えないぐらい美しく、ヴィアンの良さを全て引き出してくれるドレス。
フリルやリボンなど一切なく、無地の真っ赤なロングドレス。少しタイトだが、ストレッチ生地だから、着心地も良いと思う。肩が出て、少し男らしさが出てしまうのなら、真っ白なファーショールで隠せばいい。
ドレスを決めて、ヴィアンに差し出すと、彼女はそのドレスをじっと見つめたまま固まった。




