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少し肌寒い牢屋で私は彼らをじっと見つめる。薄着でやせ細っていて、その反抗的な目が貧困村の住人を思い出させる。
「けど、今解放されても一体どこへ行くの?」
彼らにもう一度質問する。兄と思われる少年が少し考え込んだ後、口を開いた。
「国に戻る」
「誰か待ってるの? 君たちのこと」
私の言葉に彼の目が更に鋭くなる。国外追放されたのではなかったら、国を逃げ出してきたしか考えられない。
「自由を与えても逆に困る人間もいるもんな」
私はそう言って彼らを少し挑発する。
自分とあまり歳の変わらない少年に嘲笑われているなんてイラつくものね。
「お前らの下で働くよりましだよ」
「へぇ。じゃあ、どこで働きたいの? 君たちを雇ってくれるところなんてないんじゃない?」
「うっせえ。生きていく為には盗みだってする」
「それで捕まったら? 弟が一人ぼっちになって行き倒れるかもしれない」
「そんなヘマしねえよ」
弟のことに触れられて癪に障ったのか、彼は少し声を荒げる。彼の腕の中で小さな少年はキュッと目をつぶる。
ニール副隊長は何も言わず私達の様子を見守る。
「一生盗みで生活していくのなら、僕の下についた方がまともな生活できるよ。それとも能力がないから、こんなところで働けないっていうの?」
彼らを見下ろしながら私は彼らを馬鹿にするようにニヤッと笑みを浮かべる。
「てめぇ」
そう言って、いきなり少年は弟から手を離して、柵越しに私の胸倉を勢いよく掴んだ。
ニール副隊長は「おい」と彼の方へと近づくが、彼はニール副隊長に目もくれず私を睨みつける。
「お前は何もかもなくしたことあるのかよ。家族も地位も名誉も何もかも全て奪い取られたことあるのかよ。見えてねえなんて言わせない。俺のこの顔を絶対覚えておけ。この復讐を誓った顔を忘れるな。俺はここから出て、国に戻るんだ」
切羽詰まった表情で彼はそう言った。あまりに緊迫な雰囲気にニール副隊長は押し黙る。
ということは、メルビン国では貴族だったのかしら。問題はラヴァール国だけじゃなさそう。
「復讐したいのなら、僕が鍛えてやろうか?」
「は?」
私の言葉に少年は怪訝な表情を浮かべ、私の胸倉を掴んでいる力が少し弱くなる。
「まぁ、見込み違いだったら僕から捨てるかもしれないけど」
「何言ってんだ? 自分より弱そうな人間に鍛えられるなんて馬鹿馬鹿しい。それに復讐の為に手を貸すなんてそんな甘い話に乗るわけねえだろ」
そう言って、彼は私から手を離し、弟の方へと行く。
「……ニール副隊長、少し彼と二人っきりにさせてもらっても良いでしょうか?」
私がそう言うと、ニール隊長は難しい顔で少し考えてから「分かった」と頷き、その場を去った。
信用してもらうためには、先にこちら側の情報何か提供しないといけない。
「お前もとっとと出て行けよ」
本当に全く懐いてくれないわね。
簡単に人を信じないことはいいことだ。けど、彼の場合、私を信用しないのは今まで大勢の人間に騙されてきたからだろう。