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私はニール副隊長に連れられて薄気味悪い地下の牢獄へと連れられた。
何故か少し地面は湿っていて、水たまりなどがある。そこを鼠がシュッと駆け抜けたのが見えた。
……もしかして、私に罪人を押し付けようとしているの?
昨日はおじい様の美しい部屋で楽しんだのに、今は臭くて汚い牢獄にいる。
「もし、僕が手に負えない場合、その人達はどうなるのですか?」
「殺すしかないだろうな」
ニール副隊長は低い声でそう呟いた。人の命の価値はみな平等であるけれど、立場によってその重みは変わってしまう。
「着いた」
彼の声と共に私はその場に足を止める。ピチャッと足元で音がする。丁度、足が水たまりに入った。
けど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。太い鉄の柵で閉じ込められている二人を見つめる。
……なんて鋭い目。敵意と憎悪しかないじゃない。特に一人の男から放たれる殺気には驚かされる。
全くこの場所で馴染もうなんてしていない。
私と同い年かそれより下ぐらいかしら。ジルと同じぐらいかも。……そう言えば彼も最初は私にこんな目を向けていた時もあったわね。懐かしいわ。
兄と思われる方は少し怯えている弟を抱きしめて私達を睨んでいる。
少し癖のある黒い髪に韓紅色の瞳。双子だとは到底思えない歳の差だが、顔は二人ともよく似ている。
けど、性格があまりにも表情に出過ぎているからか、そんなに似てもいないのよね……。それに、彼らは褐色肌。デューク様より随分と濃いけれど。
「どこで彼らを見つけたんですか?」
私の言葉にニールは苦笑する。私を見るその瞳は「お前が一番知っているだろう」と言いたげだ。
「も、しかして、闘技場?」
「ああ。正確に言えば、闘技場から脱走した人間を捕まえた、かな」
「褐色肌ってことは……」
「何をそんなに驚いている。メルビン国からも罪人は来るだろ」
当たり前のようにニール副隊長がそう言った。
…………確かに、それもそうよね。デュルキス国限定で罪人受け付けるなんて考えられないもの。
メルビン国……。きっとデューク様のお母様の出身国。王妃が生まれた国のことなんて今まで気にもかけてこなかった。それ以外にすることが沢山あったから。
けれど、今こうして、メルビン国出身の彼らを見ると興味が湧いてきた。
「僕に彼らを預けてくれるのですか?」
「ああ。けど、こいつらは相当厄介だぞ。兄だけじゃなくて、弟のほうもな」
私はニール副隊長の言葉を聞きながら牢に入っている二人の少年へと視線を向ける。
私に慈悲なんて言葉は似合わない。だから、強くなければいらない。私の部隊は誰でも入れるようなものじゃない。
「名前は?」
私が少し圧をかけてそう言っても、全く彼らは動じない。兄の方は私から決して目を離さず、物凄い形相で睨んでくる。
魔法学園でも沢山睨まれていたせいか、睨まれることが日常になってしまって彼らに対して何も思わない。
「僕の名前はリアだ。十六歳。君達の年齢は?」
「どうしてここに入っているんだ?」
「お腹が減った?」
何を言っても無駄なようね。あからさまに無視されているもの。……彼らが一番望むことは。
「解放されたい?」
私のその質問に兄の眉がピクッと少し動くのが分かった。