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私はおじい様から話を聞き終えた後、小屋に戻る。
ヴィアンとヴィクターが誕生してからサンチェス家とハリスト家の関係も少し悪くなったが、それとは関係なしに彼らは仲の良い兄弟だったということを教えてくれた。
まぁ、今はそうじゃないけれど……。けど、彼らなら私なんていなくてもどうにかなりそうだわ。
ヴィクターも私を使って変にヴィアンのことを勘繰らなくてもいいのに。そもそもヴィアンの元へ送られた主旨自体を説明されていないってことは、今の彼がどんな様子かが単に気になっているっていう弟心もあるのかもしれない。
今回のことに私は干渉しないでおこう。毎度何かに巻き込まれていては身がもたない。
私は気持ち良さそうに眠っているライの隣に横になる。ライはとても温かくて気持ちいい。
……複雑な家庭過ぎて私からは何も言えない。
本来なら次期国王はヴィクターだったはずだものね。けれど、ハリスト家の人間がサンチェス家に嫁いだ為、ヴィアンにも王位継承権が与えられた。それに、彼は第一王子だもの。
「もういっそのことじゃんけんで決めちゃえばいいのに」
私はそんなことを呟きながら、ゆっくり目を瞑って眠りに入ろうとした。
その瞬間、私は左目に違和感を覚えた。一瞬だけ視力が戻ったような感覚。
……今の何?
突然の出来事に頭が回らない。私の魔力が弱まったとか?
考えられることは二つだけ。私の魔法が解けかけているか、もう一つは……ウィルおじさんに何かあったか。
彼に限ってそんなことあるはずない。どうか前者であってほしいと心の底から願う。
今すぐウィルおじさんに何があったのか確認したい。何もなければ良いけど、何かあったら耐えられるかどうか分からない。
……でも、今帰ったら絶対に怒られる。自分で決めた道を途中で抜け出すなんてきっと彼に失望される。
私の様子に勘付いたのか、ライが目を覚まして、私を慰めるように顔をスリスリと押し付けてくる。
こんなところで弱気になってはダメよ、アリシア。デュルキス国にはジルもデューク様もいる。
彼らがきっと何とかしてくれるわ。だから、私はここで自分が出来る限りのことをする。
「ありがとう」
私はライにそう呟き、彼を優しく撫でる。
無駄に過ごしていい時間なんて少しもない。私は早くこの国の実態についてもっと知らないと。見て、聞いて、感じる。
今日はラヴァール国の王家の歴史について少しだけど学んだ。これからもっとおじい様達から学ぶことが沢山あるだろう。
……私もそろそろデュルキス国に帰る日のことを考えておかないといけないわね。