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連れてこられたのは私が以前、上ることを止めた塔だった。
……確か、ここ魔法がかかっていたわよね。
おじい様が中へと入っていく。……私、まだ登れない設定の方がいいわよね?
「あの、僕、ここは」
「魔法は解いてある」
私の言葉を遮るようにおじい様はそう呟いた。
私は彼の後に従って階段を上っていく。……魔法を解いているのに、やっぱりかなり上るのね。
螺旋階段をずっと上っていたら目が回りそうだわ。
「ここだ」
一番上までのぼりきると、おじい様は少し古びた木の扉をギギッと開けた。少し埃が舞う。掃除がされていないことが分かる。
そりゃ、魔法かけられていたら使用人達も来れないわよね。
私は少しドキドキしながら部屋の中へと足を踏み入れる。入っては行けないところに入れる喜びっていつになってもあるものだ。
「なにここ」
私は部屋の中の光景に思わず声を漏らす。
観葉植物がこの部屋を覆っている。小さな蝶も飛んでいる。大量の書物が壁際に並べられていて、床にも沢山詰まれている。大きな丸い窓から光が差し込んできて、幻想的だ。
空気が澄んでいて、とても心地いい。私は息を呑む。
なんて素敵な場所なのかしら……。
近くから「ミャオ」という可愛らしい声が聞こえた。私は自分の足元に視線を落とす。
……黒猫? でも、その割にはライオンに見えるような気もする。
顔をスリスリと私の足にくっつけてくるライもここに連れてきて皆で戯れたい。
「私以外に懐くとは……」
おじい様以外には懐いていないの? ……もしかして、同じ血が流れていることを野生の勘で当てられた?
人間は騙すことは出来ても、動物は騙せないわよね。
「あまり猫に見えないですね」
私はなんとか話題を変えようとする。おじい様はフッと笑った。
「魔力を与えたからのう。……お前のライオンもそうだろう?」
「どうしてライオンのことを……」
ライオンが黒くなったことは誰も知らないはず。だって、魔法を使ったのは小屋の中だし……。
「ここに来てからお前に関して知らないことはほとんどない」
おじい様の言葉に私は固まる。
それと同時に、どこからか銀色の蛇が現れた。うろこがキラキラと眩しくて、この世のものとは思えない蛇。
……どうしてかしら。どこかであったような気がするわ。
「流石だ。察しがいい。アルビー」
おじい様がそう言うと、蛇はみるみるうちに人間に姿を変えた。
…………嘘でしょ。この人って。
デュルキス国から一緒に国外追放されたあの坊主頭の人じゃない。殺気が凄かったからこの人だけは鮮明に覚えている。
今にも人を殺しそうだったのに、今はそんな雰囲気を少しも醸し出していない。
「国外追放される人間をいつも監視してる蛇だ」
元は蛇で人間の姿に出来るなんて、そんな高度な魔法……、もしかしておじい様って。
私は陽光で照らされた思慮深く威厳のある紫色の瞳を見つめる。彼はフッと笑みを浮かべる。
「当時、国一番の魔法を扱えたウィリアムズ・アルベール。魔法レベル100であり、君の祖父だ」
アルビーがとても良い声でおじい様を紹介してくれた。