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私はじっとヴィアンを見つめる。
どうして顔まで赤くなっているのかしら。愛人を囲うなんてそんなに驚かな……、もしかして。
「もしかして、それって、王子のですか?」
私の言葉にヴィアンは更に顔が赤くなる。まるで林檎のようだ。
図星だったの? ……ってことはヴィアンは女装家? それともオネエ?
「私のって言ったら?」
少し涙目で睨みながら彼は私の方を睨む。
さっきまでヴィアンのことを恐ろしい人間だと思っていたけれど、こうやって見てみるとそうでもない。
……もしかして、私、彼の重要な秘密握っちゃって、口封じの為に殺される!?
いや、そんなわけないわよね。だって、私が死ぬわけないもの。
「ねぇ、私の話聞いてるの?」
ヴィアンは少し怒った口調でそう聞いた。
私が「喋り方」と呟くと彼はハッと、口を手で覆う。どんどん彼のキャラが崩れていく。冷静で少しサイコパスな王子の印象が消え去った。
「もしかしてあっち系ですか?」
「あっち系ってどっち系よ! というか、何よその反応は! もっと他に言うことあるでしょ!」
そんなに怒鳴らなくても良いじゃない。
他に言うことなんて思いつかない。ヴィアンの機嫌を損ねないように私は必死に頭を回転させる。
「その口紅って結局王子のだったんですか?」
「はぁ……。逆にこの流れで私の以外なんてあり得る? 女装が私の趣味なのよ。だからって、別に男が好きってわけじゃないのよ。ちゃんと恋愛対象は女性よ。……何か文句ある?」
何も言っていないのに、ヴィアンはどんどん話をしてくれる。私は黙って彼の話を聞いた。
ヴィアンは顔が整っていて、美しいから女装したら絶世の美女になりそうね……。是非見てみたいわ。
「その口紅の色って何色ですか?」
私の質問に彼は怪訝な表情を浮かべながら「赤よ」と答えた。
「素敵。今塗ってみてください」
「私を馬鹿にしてるの!? 私を軽蔑しないなんて貴女が初めてだったから、嬉しかったのに……」
最後の方はボソボソと言っていてよく聞き取れなかった。
……考えてみれば、私、王子に対して物凄く失礼な態度をとっている。それでも、私は彼がより美しくなる姿を見てみたかった。
「絶対に似合うと思うから」
躊躇うヴィアンを見ながら私はそう付け加えた。
彼はしぶしぶ口紅をそっと唇に塗り始める。薄ピンク色の唇が真っ赤に染まっていく。日光で煌めいた長い金髪に、神秘的な黄緑色の瞳。真っ白い肌に良く映える真っ赤な唇。
「なんて綺麗なの……」
思わず心の声を吐露する。
私の言葉にヴィアンの瞳孔が散瞳するのが分かった。そして、彼は固まったまま私をじっと見つめる。
男性だからこそその美しさが出せるのだと私はヴィアンを眺めながらそう思った。