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「俺、アリシアに謝らないと……。きっと許してもらえないだろうけど」
エリックが悲愴な表情でそう呟いた。
いや、そこまで苦しくならなくてもいいよ。アリシアも悪女に見られたいって頑張っていたんだし……。
彼女にとっては幸せな生活を送っていて、尚且つ、念願だった国外追放になって一石二鳥だよ。
「アリシアは最初から怒ってないぞ」
デュークがエリックをフォローする。その言葉でエリックは少し救われるだろう。
キャザー・リズに対してほとんど何も言わなかったのに……。
変に優しい言葉をかけると期待してしまうのを分かっているからあえて何も言わなかったのかもしれない。何も言わないのがデュークなりの優しさだったのだろう。
デュークは案外ちゃんとリズのことを見ていたんだね……。
「アリシアに会いたいな」
デュークは窓の外を眺めながらボソッとそう呟いた。
普段そんなことを言わない彼が珍しい。デュークが誰よりもアリシアに会いたいのだろう。
僕はそんなことを思いながらアリシアのことを考えた。
会っていない時間が長いと、本当に実在したのか分からなくなってくる。
幻の人みたいな感じ。僕の前にパッと現れて消える伝説のヒーロー的な存在だったのかもしれない。
「アリシアの考えは最初からまともだったんだ。俺は五大貴族として……、上に立つ者として間違った選択をしてしまった」
「今期待されていないってことは、後は挽回するだけだから楽だろ」
デュークがエリックの言葉に即答する。
確かに。今どん底にいるのだったら、エリック達は這い上がるのは簡単だ。
そう思ったらデュークとか大変だよね。何かを成し遂げたら、また期待されて……。終わることのない膨れ上がっていく期待に応えないといけない。
僕はキャザー・リズの方を見る。
彼女はこの学園で最も好感度が高かった聖女だ。今からどんどん落ちていくだけ。
キャザー・リズはこれからの生活が一変するだろう。地獄を見るかもしれない。……けど、多分君はそんなことでへこたれるような人間じゃないでしょ。
「頑張れ」
デュークがキャザー・リズにそう言った。それはきっと本心からのものだろう。
リズはデュークを見ながらため息をついた後、フッと柔らかく笑う。
「あ~あ、どうしてこんな男好きになっちゃったんだろう! エリックだったら、幸せになれたのに~」
「おい、それ俺のことちょろい人間だと思ってるだろ!?」
キャザー・リズの言葉にエリックが声を上げる。
さっきの弱々しい声はどこに行ったんだ。デュークがいつもみたいに意地悪そうに笑みを浮かべる。
「俺なんて好かれる要素ないしな」
「「お前それは喧嘩売ってるだろ」」
エリックとヘンリの言葉が重なる。急にヘンリも会話に参戦し始めた。