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『なに甘えてるの? 自分で招いたことに自分で苦しくなるなんて。それぐらいの想定はちゃんとしておくべきでしょ? まぁ、でも……』
キャザー・リズを眺めていると、脳内でアリシアの声が聞こえた。
幻聴だと分かっているけど、多分、アリシアならキャザー・リズに躊躇いなく手を貸す。
そうだ、アリシアはそういう人間だ。自分の評価など気にせず、ただ思うままに動く。それが、多くの人間を助けているんだ。
そして、今、僕はアリシアの代わりだ。
「私に近付きたいんだったら、泣いてる暇なんてないわよ? 今すぐ立ち上がらないとおいて行くわ。ぐずぐずしている人間って嫌いなの」
僕の言葉に部屋の空気が固まる。
全員が目を見開いて僕に注目している。デュークまでもが驚いている。
「アリシアならきっとこう言うと思って」
僕はキャザー・リズを真っ直ぐ見つめながらそう言った。
アリシアが言わないと効果がないのかもしれないけど、僕は少し不憫に思った彼女に手を貸したかった。
「確かに~! アリアリならそう言いそう! だから、とっととそのうるさい口を閉じて~」
メルはキャザー・リズに笑みを向ける。
……メルってサイコパスだ。でも、実際人情あるし、敵に対してはとことん潰すってタイプなだけか。
「僕らは君の愚痴を聞きたいわけじゃない。文句は天国で言って」
僕もメルに乗じて、言葉を吐く。
キャザー・リズは両手で涙を拭きとり、立ち上がる。覚悟を決めた表情を僕らに向ける。彼女は口角を上げる。今までの聖女のような笑みじゃない。
「流石ね、ジル君。アリシアちゃんなら確かにそう言うわね。……もう飾ることをしなくてもいいし、良い人でいる必要もない。今まで以上に面倒くさい聖女になったらごめんね」
「え、それはやめて」
清々しい笑顔に反して僕は真顔で思わず答える。
「洗脳も解けたし、めでたしめでたし?」
「まだアリシア戻ってきてないだろ。それに洗脳が解けたのはエリックだけだし」
「けどこのままリズが素を見せ続けたら魔法は解けるんじゃないの?」
「それじゃあ、このままリズに学園を回ってもらうか」
「リズリズパレードだねっ!」
メルの明るい声が部屋に響く。……なんだそのパレードは。
キャザー・リズに立ち直りの余韻なんて与えない。メルとヘンリの会話が一瞬にしてその場を支配した。彼らは、この部屋の主人公をキャザー・リズにさせたくないみたいだ。
……待って、今こんなに僕らはハッピーだけど、アリシアが帰って来た時、まずくない?
だって、リズ派の人間がいなくなるんだよね。皆にちやほやされるのがアリシアになっちゃう。
ごめんね、アリシア。やっぱり君は悪役に向いてないよ。




