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アリシアはキャザー・リズに色々と教えていたけど……。それに、知りたかったら自ら学ぶべきだ。
厳しいようだけど、僕も貴族のルールなんて全く知らなかった。テーブルマナーも何一つ状態だったが、本を読んでアリシアやヘンリに聞いた。
アリシアが僕にわざわざ全てを教えるようなことはなかった。
……そういう点ではキャザー・リズはとても恵まれてると思う。だって、君に優しくしてくれた貴族たちは沢山いるはずだから。
だからこそ君はその優しさに甘えたのかもしれないけど。
デュークは謝ったけど、王家が悪いわけではないと僕は思う。キャザー・リズの意思の問題だ。
自分の考えを信じて疑わないキャザー・リズが招いた結果がこれだ。自業自得だろう。
でも、信念を貫くのは大事なことだ。そこに他の意見を考慮することも……。
「私はアリシアちゃんに悪役になって欲しいなんて言ってないわ。貴方のお父様が勝手に命令したんでしょ。彼女が国外追放されたのは私のせいじゃないわよ」
情緒不安定になったキャザー・リズにヘンリが冷静な声を発する。
「デュークに会えるからここに来たのか?」
「……違うわ。それは本当にアリシアちゃんを救いたいって思ったの。……エゴが強いにもほどがあるわよね」
自分を偽ることを止めたのか、リズは自嘲する。それと同時にエリックが目覚めた。
「何がどうなってるんだ?」
エリックは驚いた表情で僕らに目を向ける。
メルがまたスッと僕らの横に現れた。彼女は小声で僕に「赤髪くんは、実は今の一連全部聞こえてたんだよ」と呟く。
その瞬間、デュークの計画を理解した。
エリックが寝ているとキャザー・リズに思い込ませて、化けの皮を剝がしたんだ。
……僕らが変な演技をしないように、このことは事前に教えてもらわなかった。デュークって本当に隙がない。
その分、人には言えず自分で抱え込むことが多いのだろうなと思う。
最初から王子として生まれたから、それが出来るのか。やっぱり「普通」で育ってきたキャザー・リズに難しかったのかもしれない。
特別になりたいって思ったけど、キャザー・リズは普通のままで良かったのかもしれない。でも、普通じゃないおかげでデュークに会えたわけだし……。
世界が広がるのは面白い。僕はやっぱり色々な責任や重荷を担うことになっても特別になりたい。
僕はキャザー・リズとは違う。
「リズ? 君はずっとそんなことを考えていたのか?」
エリックの言葉にリズは動揺を隠せない。彼女が今まで作り上げてきたものが崩れ落ちていく。
そんなこの世の終わりみたいな悲愴な表情を浮かべなくてもいいと思うけど……。僕は今の方が断然良いと思うし。
これで本当に洗脳が解けるのかな?
そんなことを思いながら僕は二人の様子を見つめた。