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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
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 私はその夜、ウィルおじいさんに会いに貧困村に行った。

 夜だから無事にウィルおじいさんの家に行くことが出来た。

「こんばんは」

 私がそう言って家に入ると、ウィルおじいさん以外にもう一人誰かいた。

 ベッドで横になっていたのは、今日の朝見たあの男の子だった。

 無事だったのね……。

 けど頭に巻かれているボロボロの布に血が滲んでいるのが分かった。

 包帯もないんだわ。それにこの男の子、体中にあざがあるわ……。

 とても苦しそうだわ……。

「熱もあるんだ」

 ウィルおじいさんがそう言った。

 ベッドに近づき、男の子の額に手を置いた。……凄い熱だわ。

 私は自分が着ている服をちぎった。

 そして男の子の頭に巻かれていた汚くなった布をとり、代わりにちぎった服を頭に巻いた。

 血は止まっていたけど、このままじゃ傷口が膿んでしまうわ。

 でもこれ以上どうする事も出来ない。

「アリシア、こっちにおいで」

 ウィルおじいさんが優しい声でそう言った。

 私はいつものようにウィルおじいさんと向かい合わせで椅子に座った。

「ウィルおじいさんが男の子を助けたの?」

 ウィルおじいさんは寂しそうな顔で首を小さく振った。

「あのでかい男が去った後に家に運んだんじゃ」

「誰も助けなかったの?」

「この村は明日の命より今日の命を確保するのに必死で他の人を気にかけている余裕はない」

 明日の命より今日の命……。

「皆が生きることにしがみついているんじゃよ」

 ウィルおじいさんは悲しい表情で笑った。

「私、世の中を改善したいとか誰かを助けたいとか思わないけど、ウィルおじいさんには明日も生きていてほしい」

 ウィルおじいさんは大きな手で私の頭を撫でてくれた。

 ウィルおじいさんの手は不思議と落ち着く。

「アリシア、もう一度言っておくがもう二度と夜以外にここに来てはいかんよ」

「今日の…あの光景は、普通なの?」

 ウィルおじいさんは頷いた。

「ここには魔法を使える人はいないの?」

「没落貴族なら一人いたが、死んでしまったよ」

「そう……、なの」

「あの少年はとても賢い男の子なんじゃよ。天才だ」

 ウィルおじいさんはそう言ってうなされている男の子の方へ目をやった。

 ウィルおじいさんが言うくらいだからよっぽど賢いんだわ。

 話してみたいわ。彼を救わないと……。

 これは人助けなんかじゃなくて、私が彼と話がしたいためだけに助けようと思ったのよ。

 自分の利益のためだけよ。私は聖女じゃなくて悪女なんだから。

 私はウィルおじいさんの家を出て、駆け足でお屋敷に向かった。


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