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僕達しかいない生徒会室に、エリックがキャザー・リズを連れて来た。
それと同時に、生徒会室の扉がカチッと鍵が締まる音が聞こえた。
「アリシアちゃんが死んでるかもしれないってどういうこと?」
キャザー・リズは血相を変えて、デュークの方へと詰め寄る。
本当に彼女はアリシアが死ぬかもしれないということを想定にいれなかったのか?
僕は疑い深く彼女を見つめる。
「今更何言ってんの」
メルが僕の隣でボソッと呟く。……声冷たッ!
メルって本当に自分の感情を隠すこと出来ないよね。そこがいいのか悪いのか。
「アリシアは俺達より五歳も年下なんだ」
ヘンリが台本通りの台詞を発する。公にこんなことを言えば、本当にそう思っているのならアリシアを止めれば良かったじゃないかって言われるだろう。
それに、ここにいる誰もがアリシアはラヴァール国で死ぬなんてことはないと確信している。むしろ何か成し遂げてくれそうだ。
早くアリシアの成果を見たいな。
「彼女は貴族でしょ? なんとか向こうでも暮らしていけるんじゃないかしら」
このお花畑。
国外追放された令嬢なんてラヴァール国もいらないに決まっている。デュルキス国の罪人をわざわざ喜んで受け入れる国がどこにある。
そんな善の塊の国はすぐに潰れる。罪人は見世物になるか奴隷になるか……。そんなとこだろう。
もし本当に令嬢として育ってきたのなら、辛くて苦しい境遇に耐えられなくなり、自ら命を絶つかもしれない。もしくは、役に立たず殺されるかもしれない。
まぁ、アリシアは本当に令嬢として育てられてはいるけど、とんでもなく役に立つ有能な人材だから大丈夫だろう。
「ラヴァール国では国外追放された人間は闘技場へと送られる」
デュークの言葉にキャザー・リズが「闘技場?」と小さく首を傾げる。
「暴走する獣と戦わせて見世物になるんだ」
「そんな……。でもアリシアちゃんは女の子だから」
リズの顔色が変わっていく。
「確かに女や子供は見応えがない。だから、最初に盛り上げる為に犠牲になることがある。……大国だが、それぐらい残虐な国だ」
デュークは一体どこからそんな情報を仕入れてくるのだろう。僕達の一歩先どころか数歩先をずっと歩いている。
早く僕も彼に近づかないと。
「それをリズに言ってどうなる? リズを責める為に俺は彼女を連れて来たわけじゃない」
エリックはキャザー・リズを庇う。
守る相手を間違っているだろう。この話を聞いて本当に守らなければならない相手はアリシアだと思わないのか?
「どうしたら彼女を救えるの?」
キャザー・リズは真剣な表情をデュークに向ける。
デュークに良いように見られたいなんて感情はなく本心からそう言っていることが分かった。
この世界で彼女は、小説の中に出てくるヒーローみたいな存在だと称えられている理由が分かった気がする。アリシアが言っていた通り、彼女が軸なんだ。
僕は初めてそんな風に思い、不快感を覚えた。




