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デュークとエリックが何を話しているのか全く聞こえない。
じっちゃんなら聞き取れるんだろうな。……もしかしたら、アリシアも聞き取れるかもしれない。
「何話してるんだろ~」
メルが目を凝らしながら彼らの方を見る。デュークが淡々と話している。エリックの表情が段々深刻になっていくのが分かる。
……一体何を言ったんだ?
僕はデュークの唇の動きに集中する。読唇術より読心術の方が得意だけど、デュークは表情一つ変えないから、言葉から内容を読み取らないと。
『ラヴァール国でアリシアが生き残れると思っているのか?』
デュークはエリックにそう言った。
本音ではないことは僕らには分かるが、よくあんなにも眉一つ変えないで嘘をつける。
アリシアには絶対に言えないけど、彼女がデュークを超えることは出来ないと思う。だって、アリシアは真っ直ぐで良い人だから。
デュークみたいに騙すことを平気で出来る子じゃない。だからこそ、デュークはこの国の政をこなすことが出来るんだよね……。
「終わったみたいだぞ」
ヘンリが隣で呟く。エリックは校舎の方へ入っていき、デュークが僕らの方に戻ってくる。
どうなったんだろう。デュークはもうちょっと感情を表情に出して欲しい。
「上手くいった? エリック捕らえられる!?」
なんでメルは誘拐前提で話を進めるんだ。
「まぁ、多分大丈夫だろ」
デュークはそう言って、エリックが入っていった校舎の方に視線を向けた。
「なんでアリシアの話したの?」
「アリシアの話をしてたって分かったのか」
彼は驚いた表情をして、僕の方を見る。
「ちょっとだけだけど、口を読み取って」
僕の言葉にデュークは感心するように僕の頭を撫でて「流石だな」と呟く。
いつまでも子ども扱いだ、とも思う。けど、デュークに褒められるのは嬉しい。きっと、何歳になってもこの気持ちは変わらないだろう。
「エリックはアリシアのことを賢いなんて思っていない。だから、国外追放された彼女がラヴァール国で生きていけるとは思わない。そんなこと今まで考えたことなかったんだろうな。エリックはリズに助けてもらうと言って彼女のところに向かったはずだ」
デュークの言葉に僕はため息をつく。
なんて自分勝手で馬鹿な人間なんだろう。自分達がしたことの重さが分かっていないのか……。
アリシアをこの国から除外すればいいってだけの考えで彼女の生死なんてのはどうでも良かったのか?
デュークに言われて気付くなんて、呆れて何も言えない。リズ派だと誰かが死ぬなんていうのは許せないはずだ。だから、エリックも動いたのだろう。
……まぁでも、アリシアなら、もし彼らに止められても強行突破して国外追放になってみせるだろうけど。彼女は自分を悪女に見せる為だったら、基本何でもするからね。
ああ、本当に魔法の力というのは恐ろしい。
全員が全員アリシアの考えじゃなくてもいいけど、今はリズにあまりにも偏り過ぎているから危ないんだ。