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「で、誰をターゲットにするの!? あの太っちょは?」
メルは茂みに這いつくばって、目をキョロキョロさせる。
僕らもメルに強制され、茂みに座り込んで前のめりになり標的を探す。デュークだけは立ったまま僕らの様子を上から見ている。
これだと僕らが隠れている意味が全くない。
「あ、あっちの眼鏡? それともあそこに座ってる本好きガール?」
「まず、リズのことを大好きな人間じゃないとダメだろ」
ヘンリの言葉にメルはハッとし、テヘッっと舌を少し出す。
「盲目的な信者の方が良いんじゃない?」
「いや、魔法を解くのが簡単なのは、考えが少しリズよりかなぐらいじゃないか?」
「強力な力で信じている人間を解いたら、後は簡単だから、先にハードモードでいった方が良くない?」
「確かにそれもそうだ」
「じゃあ、やっぱりあの体力系赤毛くん狙った方がいいかなぁ」
僕とヘンリの会話にメルが割り込む。彼女の視線の先には、エリックがいた。
彼は大柄だから目立つ。女子生徒が持っている大量の本を運ぶのを手伝っているところだ。
……こうして見ると、ただの良い人なんだよな。ただ、アリシアにはとんでもない敵意をいつも向けてるけど。
でも、国王がアリシアに「悪役」を与えていたと分かってから、生徒会メンバーリズ派のアリシアに対しての敵意は和らいだような気もする。
「エリックか、こっちはこっちで面倒くさそうだな」
ヘンリは彼を見ながらそう呟く。
「誰が声かけるの?」
「俺が行く」
メルの言葉に後ろから声が聞こえる。
……え、デュークが!?
デュークとエリックが話すイメージがあまり湧かない。
デュークが失敗するはずないと分かっていても「大丈夫なの?」と彼に聞く。
「なんとかなるだろう」
恐れなど微塵もなく、いつも完璧にこなす。……本当に本の中に出てくる王子だ。
僕はそんなことを思いながら、エリックの方へ歩いていくデュークを見守った。
彼が茂みから出た瞬間、近くにいた全生徒から注目を浴びる。
やはり、気の狂った王子などと言われてもあのカリスマ性から目を離すことなんて出来ない。
常にあんな目を向けられているなんて、王子としてのプレッシャーも半端ないんだろうな。休憩する暇もほとんどない。
そんな中でアリシアだけが彼を癒す存在だったんだ。その彼女の為ならなんでもするよね。
「前みたいな黄色い声はおさまったけど、未だにあんなに注目されて、あいつも大変だな」
「デュークにはアリシアがいるしいいんじゃない」
「私もアリアリ独り占めしたいよ~!」
ヘンリと僕が少し声を落として話しているのに、メルはそんなことを気にも留めず、大きな声でそう叫ぶ。
僕らは必死に周りに気付かれないように、彼女の口を覆う。
本当にいつもメルだけは緊張感がない。




