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「……隙があり過ぎて心配になってきたわ」
私に仕事を任して数日後のある日、ヴィアンは小さくそう呟いた。
彼の元についてから、私は寝る間も惜しんでほぼこの部屋にこもりっきり。そのおかげか、段々仕事のコツを掴んできて、とんでもない速さで仕事をこなしている。
だから心配してくれているのかしら? ……ん? その前に隙があり過ぎてって言った?
私はヴィアンの方を勢いよく見る。
「設定上、目が見えないはずだろ」
…………あ、そうだった。
彼の言葉にハッとする。ヴィアンは小さくため息をつく。
ヴィクターにバレているから、もうてっきりヴィアンにもバレていると思っていた。……いや、バレてはいただろうけど、そのことについて本人から直接言われていない。
「この私が引くぐらいのスピードで仕事をこなしてくれているのは助かっているが、もうちょっと気を引き締めないと危ないぞ」
「全てお見通しってわけですね」
私は肩の力を落とす。その様子を見て、ヴィアンがニヤリと笑うのが分かった。彼のその笑顔はとても艶やかで思わずドキッとしてしまう。
どこぞの王子も色気が凄いわね。ヴィクター、……頑張れ。
「ですが、片目がないのは事実です」
そう付け足すと、ヴィアンは手に持っている書類を机に置いて、私の方へゆっくり近づいてきた。
もっと一気に近づいて、早口で問い詰めるぐらいの方が良い。この静けさが緊張感を生み、怖さを感じさせる。
そんな速度で歩いていたら学校に遅刻するわよ。……もう学校に行く歳でもないだろうけど。
「この布を取ってくれないか?」
優しい声……。こうやって私を懐柔しようとしているのかしら。
少し迷いながら、近くにいるヴィアンを見上げる。
……ヴィクターにも結局瞳を見られた。別に兄の方に見られても害はないだろうけど、何となく怖い。
ヴィアンの情報力なら、黄金の瞳と黒い髪で、一瞬でウィリアムズ家の長女だと調べ上げることが出来るだろう。
「私の瞳を見たら石になりますよ」
彼はフッと口角を上げる。
「石か、悪くない」
きっと第一王子の頼みを断る人間なんて私ぐらいだろう。我ながら自分の度胸に感心したいわ。
処罰を受けてもおかしくない態度だもの。
「王子は美しいのでとても綺麗な像になると思いますよ」
私が笑顔を向けると、ヴィアンも不気味な笑顔を返し「そうか」と呟いた。
その瞬間、呼吸が苦しくなる。彼が勢いよく私の首を片手で掴み、体を持ち上げていた。
「カハッ!」
息を吸おうと思っても空気が入ってこない。
一体どんな力で私の首を絞めてるのよ。弟も馬鹿力タイプだけど貴方も同じタイプだったのね。
私は彼の手をはがそうと、両手で思い切り彼の手を握り、宙に浮いている体を動かす。
なんて強い力なの……。びくともしない。
……このままじゃ、私、本当に死んじゃう。




