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「リア、この仕事して」
「これ任した。計算間違えないように」
「まだ終わってないのか? 早くこの書類に目を通して契約書作れ」
「はい、次これ」
……なにここ地獄?
死ぬほど忙しいじゃない。兄弟揃って私を虐めるのが好きね。
絶対にこなしてみせるっていう精神でやってるから何とか全ての仕事を時間通りに間に合わせているけど、こんなの普通の世話係じゃ不可能よ。
辞めたくなる理由が分かるわ。
私の手から紙がなくなったと思えば、さっき終わらせた倍の書類が乗っかってくる。いくら文章を読むのが早くても丸一日ずっと集中するのにはかなり体力がいる。
終わりのない作業って精神的にもしんどいのよね……。けど、私が仕事をしている時、ヴィアンも同じぐらい、いやそれの倍の量の仕事をしている気がする。
休憩することなくずっと忙しく働いている。ハードワーカーって彼のような人のことを言うのだろう。
第一王子っていう職業も大変ね……。
ん? もしかしてデューク様もこれぐらいの量の仕事は難なく出来るのかしら。
「何ボーッとしているんだ? まだこれが終わってないだろ」
ヴィアンはそう言って、更に私に仕事を課す。
ああ、もう疲れたわ! ずっと頭を使っているもの。脳も叫びたがっている。
けど、私は弱音を吐くようなダサい悪女じゃない。もう少しの辛抱よ。忍耐と根性があれば何でもできるわ。
私は自分に喝を入れて、与えられた仕事をこなす。
「ここで更にいい仕事が出来るのは優秀な人材だ」
ヴィアンは小さくそう呟いて、彼も自分の仕事に取り掛かる。
急に褒められると調子が狂う。けど、こんな上司が一番人望あるのよね……。
こんな仕事は私のやりたいことから程遠いけど、目の前にあるタスクを出来ない人間が他のことをこなせるわけがない。
こんな仕事、今すぐ終わらしてやるわ!
私は布越しに必死に書類を見つめる。
……ん? 何かしら、これ。
紙をめくる手を思わず止めてしまう。そして、想像もしてなかった内容が視界に入ってくる。
『デュルキス国に存在する聖女について』
こんな情報一体どこで手に入れたの……?
私はヴィアンにバレないように、じっくりとその内容に集中する。
『デュルキス国に聖女がいることが判明した。名はキャザー・リズ。平民出身だが特例で魔法学園に入学。全属性の類稀なる魔法使い』
な、なんでこの情報がラヴァール国に知れ渡っているのよ……。
だから、リズさんの情報を探ろうと学園にラヴァール国の狼が入って来たのね。
聖女だってことはデュルキス国の貴族の間でも隠されていた内容だったのに、いつの間にヴィアンはこの情報を得たの?
聞きたいけど、今聞いたら不自然過ぎる。彼に怪しまれたら、今後が大変だわ。
「何か問題あったか?」
ヴィアンは私の様子がおかしいのを察したのか、私の方に近付いてくる。
「いえ、何も!」
私はそう言って、急いで紙を捲り始める。
もうすぐ点と点が線になりそうなのに……。まだ全部掴めていない。




