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……それにしても、私いつの間にこの隊でこんなに人気になったのかしら。最初は皆私のこと警戒していたのに、今じゃベストフレンド並みの距離感だわ。
遠征で死んでくると思われていたのか、帰ってきてから人気者になった。
私はサンドイッチを頬張りながら、周りにいる人間達を無視する。彼らはそんな私の様子を察することなくひたすら話しかけてくる。
色々考えたいから静かに食事したいのに……。
「おチビは一体どこでそんな戦闘能力を身に着けたんだ?」
「なぁ、どうやってあの死到林で生き残れたんだ?」
「師匠とかいるのか? 良ければその方の名前を教えて欲しい!」
「チビ~! 何でもいいから教えてくれ!」
リアって名前を誰も呼ばない。絶対に答えてあげないわ!
「頼む! 師匠の名前だけでも教えてくれ! リア様!」
誰かが私の名前を呼んだ。
あら、久しぶりに名前を呼ばれた気がするわ。
「僕に師匠なんていないよ」
私はそれだけ答えて、サンドイッチをまた口に入れる。
あ、これハムサンドだわ。なんて美味しいのかしら。この城のシェフは超一流ね。
「自分一人でこんな技術を手に入れたのか?」
「こんな小さな体でそんなことが可能なのか? ……いや、小さいからこそ出来たのか」
ぼそぼそとさっきより声を落として皆が話しているが、私はサンドイッチの美味しさで全く聞いていなかった。
剣術は最初はお兄様に教えてもらって、魔法のことに関してはウィルおじさんに教えてもらったけれど、実際スキルを獲得したのは自分の努力だし……。実際師匠と呼べる人はいないのよね。
「俺も王子に気に入られてえよ」
「それなら、もっと剣術を磨け」
誰かがそう言ったのと同時にヴィクターの声が耳に響いた。全員が一斉に後ろを振りむく。
ほら、急に現れるから皆の顔が真っ青じゃない。
「も、申し訳ございません!」
さっき声を発した男が勢いよくその場に立ち、九十度に頭を下げる。
「いいからとっとと訓練に取り掛かれ」
面倒くさそうにヴィクターがそう言うと、全員が「ハッ」と声を揃えて、走り出す。
え? まだ昼食の途中なのに? 私のハムサンドは!?
私も渋々立ち上がり、走り出そうとすると、後ろから襟を思い切り掴まれる。
「お前は残れ」
「どうしてですか?」
王子の顔を見ずに、少し怒りをこめて声を発する。私は小さくなっていく兵達の背中を虚しく見つめた。
こうやって私だけ王子に贔屓されると、いじめにあうかもしれないでしょ。まぁ、彼らが私を虐めるとは思えないけど、何人かぐらいは私のことを快く迎え入れていないはず。
「ガキには仕事があるんだ」
「え~、時給高くしてくださいよ」
「何を言ってるんだ? お前には今から超重要な仕事を与える」
ヴィクターは私の襟を掴みながら私の体をグルッと回し、王子と対面する形になる。黄緑色の彼の瞳に私の嫌そうな表情が映っている。




