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「比べられてもヘンリは良いじゃないか。……どうせ俺のこと馬鹿にしてたんだろ」
なんだかアランを見ているとアリシアと出会う前の卑屈な僕を思い出す。
「馬鹿にしたことなんて一度もねえよ」
「…………だから、腹が立つんだよ。出来が良くて、良い奴で、ヘンリといると俺は自分が情けなくなる。惨めなんだ」
アランの声が段々弱くなっていく。
人と比べられて成長する人間もいれば、ダメになる人間もいる。双子だからって同じ性格とは限らないってわけか。
「ようやく本音が聞けた。ある時からお互いずっと避けてきたから、アランが俺に対してどう思っているのか分からなかったんだ」
「ヘンリは俺のこと嫌いだろ?」
「なんで?」
「なんでって……。俺とヘンリじゃ考え方が全く違う。周りからよく俺らは一緒にされて」
「リズのアランはアランよ、って言葉で救われたのか?」
ヘンリはアランに被せるようにしてそう言った。
あ、そういや、昔ヘンリがそんなこと言ってたな。そんなこと自分で気付けって言ってたような……。まぁ、僕には関係ないけど。
「ああ。彼女の言葉が全てだった。俺が今まで抱えていたものが消えたような気がしたんだ。彼女の言葉も俺に向けてくれる表情も全て特別で。だから、俺はリズを守れるならなんだってする」
アランは力強い声を発する。
彼の心を救っただけならただ「おめでとう」と言って終われるんだけど、僕らに害をもたらしてるからなぁ……。
「一人の兄として妹を守るのも」
「アリシアは度が過ぎた!」
今度はヘンリの言葉にアランが声を被せる。その荒い声は廊下に響き渡ってよく聞こえた。
うわぁ、アランの脳はリズのことしか考えられないのか……。
「俺もアリを守ろうとずっと思ってきた。可愛い妹だ。なのにリズに対してあんな態度……」
「まぁ、惚れた女を守ってしまうのは仕方ない。……昔、アリにアランのことを憎まないのか、と聞いたことがある。そしたら、彼女は笑顔で答えたんだ。たとえ、お兄様が私のことを殺したいぐらい嫌いでも私がお兄様を嫌いになることはないわって。皮肉でも何でもない、彼女の本心だ」
ヘンリの言葉にアランが固まる。
「な、んで。俺はアリに酷いこと……」
アランの声の震えで動揺しているのだと分かる。
……もしかしてさ、これ牢屋に入れる前に洗脳解けるんじゃ。
いやいや、そもそも人体実験するって言ったのはヘンリだ。今洗脳を解いてしまうなんて馬鹿なことはしないはず。
僕は彼らの様子をもう少し見守ることにした。
「アリシア側とかリズ側とかそんなくだらない派閥関係なしに答えてくれ。アラン、お前はアリシアに救われたことは一度もなかったのか?」
ヘンリは真っすぐアランの方を見つめながらそう言った。