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「アラン、少し話出来るか?」
屋敷の中でヘンリがアランに声をかける。
……まさか本当に実行するとは。
道徳に反しているような気もするけど、王子がいいって言うならいっか。
彼らが話しているところをあまり見てこなかったが、僕らの中でアランを呼び出すのに一番適している人材はヘンリだ。
デュークがアランを呼んでも間違いなく来るだろうけど、怪しまれる。何より噂になるだろう。
僕はこっそりと彼らの様子を窺う。アランの背中とヘンリの顔が見える。
ヘンリと目が合う。僕に気付き、ウインクを向ける。
……緊張感なさすぎだろ。
まぁ、これぐらい弛んでいる方がいいのか? ……彼らといると感覚が麻痺してくる。
「なんだ?」
アランはさほど疑っている様子はない。
派閥は違えど、兄弟だったら不審に思わないか。
「今、レベルはどれくらいなんだ?」
「五十二だけど」
ヘンリの言葉にアランは即答する。
五十二? 低くない!?
いや、十八歳だったらそれぐらい?
アリシアは今十五、じゃなくて、向こうで誕生日を迎えたはずだから十六歳。レベル91。
デュークは二十歳でレベル100。……やっぱり僕の周りがおかしいんだよね?
平均が分からない!!
メルは知らないけど、五大魔法の一つじゃないからそんなに高くなかったような気もする。
僕の周りで平均を取ったら、多分アランは劣等生だろう。
「ヘンリは?」
「六十八」
「双子だけど、全然違うな」
アランは皮肉のつもりか、笑いながらそう言った。
「昔からお前の方が常に前に立っていた」
「そうだっけ?」
アランの言葉にヘンリは小さく首を傾げた。
後ろに立つ者ほど前にいる人間のことが分かる。先を歩んでいる人間は後ろの者などに見向きもしないから。
貧困村出身で、今魔法学園に通う僕だからこそ理解出来る。アランの気持ちも、リズの気持ちも。……理解出来るけど、絶対味方にはならない。
ヘンリやデューク、アリシアも彼らの気持ちは分からないんだろうな。
彼らに妬み嫉みという感情が薄れている。余裕がある人は誰かを僻んだりしないもんなぁ。
「魔法も学力も常にヘンリが上だっただろ。アリシアがまだ小さい頃エリックとヘンリが街の植物屋に連れて行ったことがあるだろう? あの時、俺は出来が悪くて特別授業を家庭教師にされていたんだ」
「そう言えば、そんなこともあったような」
「まぁ、覚えていなくて当然だよな」
「双子って面倒くさいよな。アル兄と比べられるのとはわけが違う」
ヘンリが自嘲気味にそう言葉を発する。
あれ? なんか話が変な方向に向かってない? ヘンリが言っていた作戦と全然違うじゃん。
何がアランに天気の様子でも聞いて呼び寄せるだよ。
まぁ、最初からそんな方法でアランが捕まるとは思ってもなかったけど。




