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旧図書室を出てから、デュークと行動を共にしたが、確かにデュークに迫ってくる生徒達の勢いが凄い。
前までデュークの事を怖がっていた生徒達も容赦なく彼に声をかけてくる。
どれも内容は同じだ。キャザー・リズを褒める内容ばかり。
もしかして、キャザー・リズの恋心がさらに強まって、魔力が強まってる?
「あの、殿下。私はアリシア様推しです!」
ある女子生徒がデュークに向かって、それだけ言うと、彼女は駆け足で僕らの前から去って行った。
隠れアリシアファンというものが存在するのは知っていたが、公の場で直接そう言ったものを見たのは初めてだ。
明日からいじめられたりしないかな、あの子。まぁ、アリシアが好きなら強く生きていけるだろう。
……いや、アリシアが特殊な精神の持ち主だから一緒にしない方がいいか。
「珍しいこともあるんだねぇ」
メルは目を見開きながらさっきの女子生徒の背中を見つめている。
「残念なことに俺の妹好きは少数派だけどな」
「肝心の兄弟がリズ派だもんね」
僕の言葉にヘンリは少し考えた後、言葉を発した。
「アランは放っておいて、アル兄は今やアリ派だぞ? 元々賢い人だから、自分の過ちに気付いたんだろう。俺にも謝ってきたよ。まさかアル兄に頭を下げられるとはなぁ」
「本当に改心したんだね。……残りは一人だけか」
「アランは難しいだろうな。双子の俺が言うんだから間違いない」
ヘンリはそう言って、親指を立てて僕の方に向ける。
「そんな自信満々に言われても……」
「だからさ、アランで試してみたらよくないか?」
「何を?」
「魅惑の魔法を解く方法をアランで人体実験するんだ」
誰もがヘンリの言葉に固まった。
なかなかとんでもないことを言うな。このメンバーの中で一番大人しそうなのはヘンリなのに……。
これじゃあ、唯一まともな人間は僕だけになっちゃうじゃないか。
「具体的には!! どんなことするのッ!」
メルは食い気味にヘンリの方に顔を近づける。
「まずはアランを捕まえて監禁でもするか」
デューク、それ犯罪だから。
「アリシアが二年間暮らしたあの小屋でいいか。いや、もっと目立たない所にするか?」
ヘンリも真顔で答えるのやめて!?
本当にそう聞こえるから……、って本当にそう思ってるのか?
「え~~、いっそのこと牢屋でいいのに! 今までアリアリにしたこと考えたらそれぐらいが妥当じゃない?」
「それもいいかもな」
兄弟なんだから、そこは止めてあげようよ。……てか、どうして僕がアランの味方してるんだ。
せめてデュークはまともな判断してくれるよね?
僕は期待を込めてデュークの方に視線を向ける。
「じゃあ、俺の家の地下牢を使うか」
こっちも異常だった!
「いいねいいね! あそこだと誰にも邪魔されないし!」
メルの明るい声が耳に響く。
…………皆、めちゃめちゃ楽しそうだな。まず、貴族を攫って人体実験するって普通に犯罪だからね。




