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「随分と頭の回転が速いお嬢じゃないか」
疲れて眠ってしまったアリシアに柔らかいブランケットをかけながらケイトは呟いた。
「どうして皆のいる前で妖精と喋ってしまったんだか」
マークの言葉にケイトはフッと笑う。
「あの後、その部分だけ皆の記憶から消したなんて彼女は全く知らないんだろうな」
「賢いのに抜けているのが一番危なっかしいな」
「それにしても、この歳でこの子はとんでもない経験をしているな。……アルベール、お前もそう思うだろう?」
ケイトがアルベールの方に視線を向ける。
彼は何も言わずにただアリシアを見つめている。そっと彼女の髪に触れて、撫でる。
「そんな目もするんだな」
マークがアルベールを見ながら少し驚いた様子でそう言った。
気難しい表情をよく見ている彼らにとっては、アリシアを見つめるアルベールの瞳が新鮮だったのだろう。
「一体どうしてこんなところにいるんだ?」
アルベールはアリシアを見つめながらそう呟いた。
「国外追放なんてものはよっぽどなことをしない限りならない。それも五大貴族の令嬢……。今のデュルキス国はどうなっているんだ」
ケイトの言葉にマークとアルベールも考える。
彼らの中で自分達がアリシアの正体を知っているということは言わないという決まりになったが、アリシアに聞きたいことが多すぎる。
「あの国は聡い人材を国外追放にするのが好きだな」
そう言って、ケイトは苦笑する。
「努力することを少しも苦に思わないあたりがお前に似ているな」
マークはアリシアからアルベールの方を向いてそう言った。
彼の言葉にアルベールは暫く沈黙した後、口を開いた。
「私と彼女は大きく違う。ある程度賢くなった時に、努力というものは怠ってしまうものだ。だが、彼女はいくら賢くなっても限界という言葉を知らない。昨日より今日、そして現在と遥か遠い未来を見据えて、決して驕ることなく精進しているんだ。私にはそれは出来なかった」
「……それが出来る人間なんてそういないさ。彼女が特別なんだ」
アルベールの言葉にマークはそう答える。
彼らは暫くアリシアを眺めた後、アルベールがアリシアを起こさないようにそっと抱いてヴィクターの寝室へと運んで行った。




