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「お前を監視すると言っただろ。これ以上は質問は禁止だ」
そう言って、無理やりヴィクターは話を終わらせた。
まだ納得できないけれど、彼がそう言うのなら仕方がないわね。どんなに聞いても教えてくれないでしょうし……。
監視ってだけで命を懸けて部下のところについてくるって、私、あまりにも信用されていないのかしら。それともただの心配? ……多分、前者よね。
「分かりました。……ともに気をつけましょう!」
こういう時ってなんて答えるのか分からない。
「この国の頭脳三人衆に会いに行ってくるので、今から監視しなくても大丈夫です」
私はそう言いながら、その場を後にした。
ああ! ついに解放されたわ!
ヴィクターって案外寂しがりなのかしら。というか、これからいちいち何をするにしても伝えないといけないのかしら。…………めんどくさッ!!
もしかしたら、私はとても厄介な王子に捕まってしまったのかもしれない。
あ、それに第一王子にいつ会えるかどうかも聞き忘れたわ。……どのみち今晩嫌でもヴィクターに会うんだからその時に聞けばいいわよね。
私はピカピカに磨かれた廊下を歩きながらそんなことを考えた。
「そろそろ来るかなって思っていたところだよ」
私がおじい様達のいる部屋に入るなり、ケイト様はそう言って出迎えてくれた。
そんなにこやかな笑顔で言われても、正直どうしてそんなことが分かったのか恐怖だわ。
魔法を使ったわけでもなさそうだし、これが長年培ってきた勘の凄さなのかしら。私も見習わないと!
おじい様とマーク様は私が来たにも関わらず、奥でチェスをしている。
流石と思うべきなのか、もう少し私に興味を持って欲しいと思うべきなのか複雑なところだわ。
「私の勝ちだな」
おじい様は笑うことなく、そう呟いた。それと同時にマーク様がキングと思われる駒をカタンッと倒す。
今のこの彼らの動作だけで映画のワンシーンが作れそうだわ。それぐらいオーラが半端ない。
「あの、色々と私に教えて下さい」
「色々って?」
ケイト様が試すような目で私を見つめる。
彼らは私が魔法を使えるということを知っているのかしら。いや、でも、まだ公に披露したわけじゃないし……。
私はおじい様と目が合う。
そう言えば、あの日、私はどうやって助かったのかしら。
死到林の湖から出てきた時、おじい様のおかげで体が楽になった気がする。治癒魔法を使われた記憶はない。あの状況的に考えられるのは、魔力を与えられたということだけ……。
もしそうなら、私が魔法を使えるということは知られているはず……。どうしたらいいのかしら。
「どうしてそんなに悩む必要があるんだ? 私らの知識を伝授して欲しいのだろう?」
あら、もしかして私が魔法を使えるってことバレていない!?
まぁ、もしバレていたら彼らに魔法の授業をしてもらおうと思ったけれど、こっちの方が好都合だわ!
「ええ! そうです! よろしくお願いします!」
私は勢いよくそう言って、頭を下げた。
そこから日が暮れるまで彼らに沢山のことを教わった。
食べることも忘れて、私はおじい様達の話に聞き入った。それぞれ違う価値観や考え方を持っているけれど、共通して言えることは全員がこの世の安泰を願っている。
話を聞けば聞くほど色々と考えさせられて、色々な意見が出てきた。
ウィルおじさんと初めて出会った時のことを思い出した。こんなに賢い人はいるのかと衝撃だったけれど、世界はもっと広かった。
この三人を手放したデュルキス国はなんて馬鹿なのかしら。




