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ヴィクターは私の言葉に気分を害したのか、苛立ちを露にする。
大国の王子だからって忍耐力っていうものを学ばなかったのかしら。
「自分が何を言っているのか分かっているのか?」
「もちろんよ」
私はウィリアムズ・アリシアになってから自分がどういう立場で何をすべきなのか一番分かっているわ。
「そもそも王子に最初から拒否権なんてないんですよ。だって国民の命がかかっているんだもの」
「俺を脅しているのか?」
「はい」
私は笑顔を作りながら答える。
誰か最新のビデオカメラで今の私を撮ってくれないかしら。ラヴァール国第二王子を脅している女! なんて見出しでニュースになればいいのに……。
「どうやって助けるんだ?」
ヴィクターは少し落ち着いた調子でそう聞いた。
「あら、話に乗ってくれるの?」
「とりあえず、お前の話を聞くだけだ」
不服そうな表情を浮かべながらヴィクターは私のことを睨む。
「簡単よ。マディを一つ手に入れて、それを複製魔法で複製するだけ」
「……複製魔法を使うってところで簡単じゃねえんだけどな」
「私なら出来るわ」
ヴィクターの苦笑いに私は自信満々に答える。
闇魔法特有の魔法だから、おじい様も出来るけれど……。
「お前はまだ分かっていないようだが、マディ自体簡単に手に入るものじゃないぞ。高い崖の上に咲く、と言われているが、その崖の危険度を知らないだろう?」
「どれくらい危険なの?」
「死到林より危険だって言ったらどうする?」
ヴィクターは私を試すような目を私に向ける。
そんなのワクワクするに決まっているじゃない! 悪女は常に危険と隣り合わせじゃないと!
「…………どうしてそこでそんなに目が輝くんだよ」
彼は私の様子を見て、少し引いている。
失礼ね。向上心があるって褒めて欲しいわ。
「何か勘違いしているようだが、マディは貴族の中でもとんでもない高値がつく。年に数本咲くが、採取できるのは一本未満だと思った方がいい」
「つまり、数年に一つぐらいしか手に入らないってこと?」
「ああ。そういうことだ。貴族も多くの命を落としているんだ」
苦虫を噛み潰したような顔をしながら彼はそう発した。
「まだ今年の分は採取していないの?」
「ああ。だが、自分が他と違うからって思い上がるなよ。たとえお前でもマディを取りにあの崖に行けば命を落とすかもしれない。誰かを助ける為に自分が死んじまったら意味ねえだろ」
「……心配してくれてるの?」
「んなわけねえだろ! どうして俺がお前の心配なんかしねえといけないんだよ」
ヴィクターは突然声を荒らげる。
そりゃ、私達は一緒に死到林に行った仲間じゃない。少しくらい心配してくれてもいいでしょ。
……多分、ヴィクターのことだから本心は心配してくれてるんだろうけど、それを私に悟られるのが恥ずかしいのよね。
まだヴィクターと出会って日の浅い私でもそれぐらいは分かる。
「有難うございます」
私は丁寧にお辞儀をして、その場を去ろうとした。
そろそろこの部屋から脱出したい!




