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やっぱりヴィクターの部屋に案内された。なんて大きくて立派な扉。これを作るのにどれくらい時間がかかったのかしら。
うわぁ、入りたくないわ。もう私がここで過ごすことが決まっているみたいじゃない。……まぁ、実際そうなんだけど。
「あの、王子」
「何だ?」
ヴィクターはあからさまに嫌そうな表情を私に向ける。
「本当に一日だけでいいから休暇下さい。過労死してしまいます!」
「お前は死なねえだろ」
「それは……否めません」
だけど、私はずっとこの王宮に潜んでいるわけにはいかないのよ。闘技場にもう一度行って、現状を把握しておきたい。それに街の様子も知りたいし……。
「どうしてそこまで休みが欲しいんだ?」
「休みたいからです」
「見た感じほぼ体力復活しているじゃねえか」
「復活と休暇は別物です。一緒にしないでください。一日ぐらい自由をくれても良いじゃないですか!」
「お前は一番自由を与えちゃいけねえ奴だろ」
「そ、れは……」
王子の言いたいことが分からないわけじゃないけど、それにしてもなかなか辛辣。
「何をしたいんだ?」
彼はどこか諦めた表情を浮かべる。
「えっと、少しだけ闘技場に行きたくて」
「駄目だ」
「え、秒殺過ぎない? もう少し考えてくれても」
「却下。この話はなしだ」
なんて横柄なの。こんな性格なのに、どうしてモテるのかしら。皆、顔に騙されないで欲しいわ。
「理由を教えて下さい」
私は出来るだけ怒りを鎮めるようにして言葉を発する。
「今、あの闘技場で伝染病が流行り始めたんだ」
ヴィクターは少し低い声でそう言った。




